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スフィアラヴァー異神聞・2


「持つべきものは、物分かりのいい被保護者ね」
 たっぷり夜も更けてから宿屋に現れた保護者殿は、にこやかにそう評してくれた。
「どうやってここ、取ったの?」
「この子を見たら、勝手に気の毒がってくれたんだ」
「なぁんだ。昨日と一緒じゃないの」
「……それよりも、これをどうにかしてくれ」
「あらら。だめねぇ、子供の世話のひとつも出来ないようじゃ」
 膝の上で転がっている子供を、アディはひょいと抱き上げ、背を撫でた。
「また大きくなってるわね」
「みたいだな」
 やっと肩の荷が下りたように思えて、ミーシャは深く息をついた。
 幼児を抱きかかえるアディは、まだ彼女自身も子供と呼べる歳であるのに、母親の風格さえ漂う。小さくても、やはり女は女だと、月並みな感想がミーシャの頭を過ぎる。
「……アディ」
「あ、ちょっと待って。もうちょっとで眠るから」
 いい子ね、とアディは体を揺する。白い子供は、その腕の中で気持ちよさそうに目を閉じていた。
 子供なんて、見た覚えが無いけれど。
 ミーシャはぼんやりと、子をあやすアディを眺めた。こういうのをきっと、平和な光景と言うのではないだろうか。
 ゆっくりと、アディは腕を降ろした。うにゃうにゃ言いながら、精霊の子は寝台を転がる。すっかり夢の世界の住人になってしまっているようだ。
「……いい子ね」
 さらりと髪を撫でて。その眼差しが何処か痛ましく感じられて、何だかミーシャは、居心地が悪くなった。どうして自分は今、痛ましいなどと思ったのだろう。
「それで、何? ミーシャ」
「え? あ、ああ」
 ミーシャは心持ち、アディに向き直った。
 赤ん坊を抱いたミーシャと、それを包んでいた布を抱えたアディ。連中が追ったのは、直前まで赤ん坊を抱いていたアディの方だった。多分、追う彼らには、白い布がそのまま赤ん坊に見えたのだろう。あるいはミーシャの腕が、完全に赤ん坊を隠してしまったのかも知れない。どうあれ、この行動から、彼らが何を求めたか明白。
「あいつら、まず間違いなくその子を狙ってきたな」
「そうね」
 アディはさも当然そうに言う。それはつまり、何か狙われる要素をアディが知っていると言う事にならないだろうか。
「精霊の子っていうのは」
 アディは寝台の縁に腰掛けると、唸りながら伸びをした。
「捕まえればね、それなりに高く売れるものなのよ」
「ああ、やっぱりそんなところか」
「けど、ねぇ」
 視線が、ゆっくりと眠る子の上に注がれる。
「この見た目で、どうやって精霊の子だって判ったのかしら。変よね。ヒトの子と、何処も違わないのに」
 それは確かにそうである。成長の速さが異常なのは、ずっと見ていないと判らない事だ。
「俺達をずっと見張っていた、ってことか?」
「でも、いつから? あたし達がこの子を拾ったのは偶然だし、あの村ではヒトの子と思われていたのに」
 ごく自然に、ミーシャとアディは目を見交わした。
「どういうことだ?」
「それはあたしが訊きたいわよ」
 ああでも、その前に、と。
「この子に名前、つけてなかったわね」
 は? とミーシャは目を点にする。
「だから、名前。この調子じゃ、明日には喋れるようになるわよ? それなのに『この子』じゃ、話しかけづらいし」
 それはそうなのだが、この不可解な状況下、そんな悠長な事を考えている場合だろうか。
「白いからシロっていうのはどうかしら」
「待て」
 間髪入れず、ミーシャはつっこむ。
「だって、名は体を表すって言うし」
「にしたって、限度ってものがあるだろう、限度が」
 思い起こせば、自分の名前だって、養い親の名前をそのまま愛称にしたものだった。アディのネーミングセンスは、所詮この程度だったのかも知れない。
「文句があるんなら、ミーシャが考えてよね」
 御機嫌を斜めにして、アディはそう宣う。そんな勝手に、と思ったが、任せておくとシロだのアカだの付けられそうだ。そうなると、非常に気の毒である。
 とは言え、ミーシャにしてみても、養父に拾われて以後の記憶しかない余所の人間である。何か良い名前、と思ったところで思いつかない。
「うーん……フリーダ」
妖精の助言アルフリーダ? それはまた、負けず劣らず安易ね」
 二人はしばらく喧々囂々としたが、シロやアカよりはましだろうと言うことで決着がついた。かくして、この精霊の子は『フリーダ』と呼ばれる事が決まったのである。

 明けて翌日。
「ミーシャ、起きて……もう、起きなさいってば!」
 寝台から引きずり降ろされるという手荒な起こし方。ミーシャは不平を唱えようとして、絶句した。
「アディ……その子、まさか」
「その、まさかよ」
 アディのため息に合わせたように、その子はにこりと笑った。
 アディとさほど変わらぬ年頃の少女だった。着ている服はアディのものだ。長く垂らした髪は白く、笑みを浮かべる瞳は、血を透かしたように赤い。
「……フリーダ?」
「はい、おとうさま」
 誰が父親だ! と叫びたかったが、そのにこにこさ加減に、たちまち毒気を抜かれてしまう。
「一体、どうして……」
「ごめん、あたしが迂闊だった」
 ぱん、と手を打ち合わせ、アディがぺこりと頭を下げる。
「迂闊、って?」
「精霊とか妖精って、固定の形を持たないものが多いの。そういう存在が自我を確定させるものって、何だと思う?」
 瞬き、ミーシャは唾を飲み込んだ。
「名前……?」
「そう、名前なの」
 ため息と一緒に吐き出す。
「あんたが名前を決めたもんだから、この子、急に形が固まったんだわ。だからこんな風に」
 三度目のため息に、フリーダが瞳を曇らせた。
「おかあさま、フリーダの事で困ってる。フリーダ、悪い子?」
「ああ、違うのよ、そうじゃないの」
 アディは手を伸べ、忙しくフリーダの頭を撫でた。フリーダは気持ちよさそうに目を細める。
 自分が『おとうさま』で、アディが『おかあさま』とは。
 ミーシャはその光景を見、がっくりと肩を落とした。確かにフリーダが悪いわけではないが、この状況は、かなり笑えない。
「どうするんだ?」
「どうするって……どうしよう」
 アディが途方に暮れる所など初めて見る。どう考えてもアディの方が知識が多いのだ。その彼女が答えを出せないような状況を、ミーシャがどうこうできる確率は低いだろう。
「なんて言わずに、何か案くらい出してよ」
「そう言われてもな」
 自分を見上げる円らな瞳が二対。ミーシャとしては、深く深くため息をつくより他、どうしたらいいか判らない。
「精霊なら、アディが契約して、それで済むんじゃないのか? あとは連れて歩くしか」
「滅茶苦茶言わないでよ。こんな完璧に人型取れる精霊になんて、お目にかかった事ないんだから。術者には器ってものがあるのよ? あたしが支えきれなかったら、どうなると思う? 下手したら消えちゃうわ」
「……解ったから、畳みかけないでくれ」
 アディはふん、と鼻で息をつくと、そっぽを向いてしまった。高い声で怒鳴られて、ミーシャの耳の奥にはキンキンと不快な感触が残ってしまっている。
「こういう場合、原点に立ち返るのが一番だとは思うんだが……」
 原点。
 この場合は、フリーダを拾った時。
「まさか、捨てろとか言わないわよね」
「言うわけないだろう。……そこまで見損なわないで欲しい、俺としては」
 立ち上がり、ひとつ息を吐いて。
「一度、あの社に戻ってみよう。フリーダがどんな種の精霊なのか、どうしてあそこにいたのか、何かヒントになるような物があるかも知れない。
 ……ああ、でも、その前に」
「なに?」
「腹ごしらえしてからだな。朝飯にしよう」
 フリーダがある程度大きくなってくれていたおかげ(と言うのもおかしいが)で、戻りの旅は、行きより大分楽だった。だが、
「おかあさま、あれ、なぁに?」
 口が利けるようになってわかった事は、フリーダがお喋りだったという事だった。精霊全般がそうなのかどうかは不明だが、好奇心旺盛で、何事も訊いてみなくては済まない質らしい。
 他人が聞くとどう思われるか知れないからと、名前で呼ぶように教えてはいるのだが、それでも「おとうさま」と「おかあさま」がふとした拍子に出てくる。だんだん、咎める回数が減っていくのは気の所為か。
 ま、アディがそれでいいのなら、俺は構わないが。
 そう思っているところに、おとうさま、と呼ばれた。
「ん? どうした」
 あのね、と言いかけた声に、悲鳴が重なった。街道を歩く人々の間が開く。こちらに突っ込んで来るのは、追っ手と思しき見覚えのある連中だった。一度は撒いた筈の彼らが、どうやって自分達を見つけたものか。フリーダも昨日とは比べものにならない程、成長していると言うのに。かなり疑問ではあるのだが、
「取り敢えず、逃げるか」
「そうね。フリーダの情操教育にも悪いし」
 おいで、とアディが手を取って走り出す。ミーシャもそれに続いた。
「待て!」
 こういう時の台詞は、本当に没個性だ。呆れたい気がしたが、追う側にしてみても、他に言い様が無いだけなのだろうと思って、やめにする。
「おとうさま、どうしてフリーダ達、逃げてるの?」
「後で教えるから、今はアディについて走ってくれ」
 こくんと頷きながらも、フリーダは後ろが気になるらしい。何度も何度も振り返る。
「邪魔なら、フリーダがえいってする」
「しなくていい、しなくていい」
 どんな力があるのか知りたくもあったが、何かとんでもない物だったりした場合、対処出来ない。予想が出来ない事は、なるべくしない方がいいだろう。
「ミーシャ」
 アディが先を示す。もう少し走った先の辻は、あの社への分岐だ。木立も増えていて視界も悪い。よもやあんな人気のない所に逃げ込むとは思わないだろう。そちらに折れれば多分、撒ける。

 社は、少しも変わりなくあった。もっとも、あれから一日かそこら。激しく変わる方がおかしいのだが。
 何処かしら見覚えでもあるのか、フリーダは不思議そうに辺りを見、うろうろと調べ回っているアディの後をついて回っている。それはある種の鳥の親子に似ていて、非常に微笑ましかった。
「ミーシャ、ちょっと」
 手招きに応じて、ミーシャは腰を上げた。これ、と示された場所には何か、碑のようなものが倒れている。
「こら、フリーダ。退けないと見られないって」
 抱き上げて退けると、アディがちらりと笑った。
「……『スフィア』?」
「『完璧な』って意味の古語ね。ここの神殿に祀られていた神の名みたい」
 完璧という名を持つ神、か。ミーシャは碑文を見つめた。あちこちが欠けたり磨り減ったりしていている上に古文で読みづらいが、大体は解す事が出来そうだ。
「女神で水神、らしいな」
「ええ。時を決めて再生し、選ぶんですって」
「選ぶ? 何を」
「それが、そこが欠けてて読めないのよ」
 ただ、この碑文と社を考えるに、そのスフィアとやらがフリーダである可能性は、低くはない。
「無関係と考える方が、不自然ね」
「フリーダは何か解らないか?」
 再生する神ならば、記憶のひとつやふたつ持っていやしないだろうか。そう考えての問いだったが、フリーダは無情にも首を振るだけだった。
「あ、でもね」
「ん?」
「選ぶのは、ひとりなの」
 ひとり? と期せずして声を揃えて問えば、うん、と頷きがひとつ返った。
「それは、なに?」
 アディの問いに、フリーダは首を傾げた。
「わからない」
 ミーシャはアディと顔を見合わせた。
「多分、その選ぶってのが、だな」
「そうね。問題は、それが何なのか、だけど……」
 生贄とかだったら嫌よねぇ、と。……冗談にならないから怖い。
「でも、その確率は低いわよ」
「どうして」
「だったら、この子が狙われる理由が無いもの」
「……売るつもりじゃないのか?」
「多分、違うわ。この子がスフィアなら、だけど」
 言いながら、アディは考えに沈んでいくようだった。不思議そうに見つめるフリーダにも気づかず、小さく続ける。
「多分……多分だけど、何か、殺される以外の何かがあるのよ。利益になるような、人を害しても手に入れたいような、何かが」
「おとうさまっ!」
 その声に顔を上げ……そして、それは既に遅かった。碑文のある小さなその部屋の入口に、数人の男達の姿。
「もしかして、あんた達かしら? あたし達を追ってたのは」
 敢えて作られたふてぶてしさをミーシャは見て取ったが、さて、それは相手にも看破されているだろうか。彼らの表情や態度からは窺えなかった。
「そうだ」
 短く。
「わかったなら、それを渡して貰おうか」
「それって、どれの事かしら」
 アディは腕を組み、胸を反らせる。
「何にせよ、力ずくで来てもらおうかしら? あたしが持ってるもの、何一つだって渡してやる道理はないんですからね」
「威勢のいいお嬢さんだが、惜しむらくは周りが見えていない事だな」
 男達の一人が言う。その言葉尻に混じる嘲りに、嫌な予感がした。さり気なく剣に手を掛け、フリーダの位置を確認する。
「召喚士なのだろう? お嬢さん」
「だったら何?」
「ここでは魔法は動かない。そういう場所なんでね」
 男が手を振るのと同時に、ミーシャは剣を抜き、斬りかかった。それが合図であると、判っていたから。案の定、丸腰の男とミーシャを隔てたのは、鋭利な輝きを持つ剣だった。脇にいた、別な男に因るものだ。
「ミーシャ!」
 突き飛ばされた格好になったアディが、悲鳴じみた声を上げる。相手に出来るのは、せいぜい一人か二人。離れていてくれた方が助かるのだが、そうしていてくれるだろうか。
「おとうさまっ!」
「来るな、フリーダ!」
 一瞬の気の散じ。しまったと思った時には、もう遅かった。肩口に食い込む、焼けつくような痛み。至極当然の事だ。相手は一人ではないのだから。
「ミーシャっ!」
「いやぁっ! おとうさまぁっ!」
 何かがのしかかるような感触が、全身を襲った。

 それが何だったのか、ミーシャには判じられなかった。もしかしたら気を失うくらい、していたのかも知れない。感覚が自分のものとして戻ってきた時、ミーシャは床に倒れており、這うような位置から、それを見上げていた。
 それ。
 即ち、人の形をした嵐。
「……素晴らしい」
 そう洩らしたのは、丸腰の、あの男だった。
「素晴らしい! これで全てが揃った!」
 室内を荒れ狂う風に煽られながら、男は腕を掲げる。全てとは、一体何の事なのか。だがその疑問を解くよりも前に、ミーシャはしなければならない事があるのを悟っていた。この嵐を止めなくては。
「フリーダ!」
 叫んだつもりだったが、それは声になっただろうか。痛む体を引き起こし、もう一度、呼ぶ。
「フリーダ、やめるんだ!」
 おとうさま、と応えがあった……ような気がした。風の中心にいるフリーダの声は、巻き込まれてよく届かない。
「フリーダ、いい子だから!」
 そう声を張り上げたのは、アディだった。
「いらっしゃい、降りておいで!」
 差し伸べられた手が、風に傾ぐ。
「フリーダ……っ」
「やめろ、危ない!」
 アディを突き飛ばしたのは、あの男達の一人だった。
「死にたいのか!?」
 そんな様を見て呆けているミーシャの、その肩に誰かが触れた。痛みに顔をしかめると、すみませんとの声が降る。見ればそれは、ミーシャと剣を交えた青年。
「あなたが思ったより強かったので、こんな方法を採ってしまいました。……今、手当をしますから」
 一体、何がどうなっているのか。わけが解らない。
「あれは、スフィアと呼ばれるものの、卵です」
 青年は手際よく止血しながら、そう告いだ。
「卵?」
「ええ。あれだけでは、スフィアでは無かったのです」
 荒れ狂う嵐に向かって、差し伸べられる両腕。中年のその男の、何処にそんな力があるのかと思う程に。
「私達の手では、それを育てられなかった。育てる為には、外部の力が必要だった」
「待て。何の事なんだ? 俺には全然……」
「神になるには」
 ふっと、風が弱まるのを、ミーシャは感じた。
「全ての感情が必要だったのです」
「感情?」
「あの卵には、何かを憎むという感情が足りなかった。そうするだけの、感じる対象が必要だったのです」
 即ちそれが、と。
 青年の声に合わせたように、風が凪いだ。
「完璧なる恋人、スフィアラヴァーと呼ばれる存在。スフィアに愛される存在が、どうしても必要だったのです」
 凪いだ室内に、フリーダを呼ぶ声が響いた。顔を上げたミーシャの見たもの。それは、先刻までの嵐の中心に立つ、うら若い女性の姿。
「……フリーダ?」
 そう問うたのは、アディ。伏せていた目を開き、女性はにっこりと笑った。
「おとうさまもおかあさまも、無事で良かった」

「……つまり」
 平伏する男達を見遣りながらの声は、かなり冷たかった。
「あんた達は、あたし達を里親にしたわけね?」
 仰るとおりです、とは、あの中年男。話によると、彼の家は代々、スフィアに仕える神官なのだそうな。
 ミーシャ達がフリーダと名付けたその『スフィアの卵』には、憎むという感情が足りなかった。故に長く完璧にはなれず、力を与える事も出来なかったという。だが、憎むという感情は、狙って教えられるものではない。少なくとも、彼らは教える事が出来なかった。
「申し訳ない事をしたと思っております。が、我々の苦悩も察して頂き、御了承願いたく……」
 勝手な話だ、とミーシャは苦く思う。それはアディも同感らしく、ふくれっ面を隠そうともしない。だが。
「……わかったわよ。だから顔を上げて」
 二人は揃ってため息をついた。許すしかないだろう、というところでは、一致を見ている……と思う。
 なにせ、自分達の前で頭を下げている人々の中に、『スフィア』となったフリーダがいるのだから。
「おとうさまとおかあさまのおかげです」
 と言われて、それでも許せない、とは言えない。
「まぁ、いいにするわ。こういうのもクラウニストの仕事のうちと思えば」
 ありがとうございます! の唱和。さすがにうんざりするが、咎めるのも変な話だ。
 社を出ると、空にはそろそろ暮色が迫っていた。
「じゃあ、あたし達は行くわね」
「お気をつけて」
 大人になったフリーダは……いや、彼女自体、まだ目に慣れていなかったのだが、それでも少し、違和感を覚えた。
「困った事がありましたなら、いつでもお立ち寄りくださいね。フリーダはいつまでも、お二人の子ですから」
 名前というのも彼女を完璧にする要素のひとつだったのだと、神官の一人が言っていた。彼らは考えすぎて付けられなかったというのだから、いっそお笑いだ。
「フリーダもね。何かあったら呼んで頂戴。何処にいても、会いに来てあげるわ」
 はい、と笑って。
 方法は問われなかった。まぁ、向こうは神様なのだしと、ミーシャは自分を納得させる。
 元気で、と別れは至極淡泊に。また会えるかどうかは、神のみぞ知る、というところだろう。
 それからしばらくアディが元気をなくしていたのは、きっと情が移った所為だと、他人事のように思ったミーシャだった。
「何よ、あんたも元気、無いくせに」
 ……それはまぁ、仕方のない事で。
「一応、名付け親だからな」

 大分後になってから、二人は気がついたのだが。
 一人だけが選ばれる筈であった、完璧なる恋人『スフィアラヴァー』とやらは、アディだったのかミーシャだったのか。
「『おとうさま』と『おかあさま』じゃ、恋人にはなれないでしょうけど。……ああ、だったらミーシャの確率が高いわねぇ」
 ……まぁ、謎のままでもいいかも知れない。


2003.06.04 update/2002.05.03 written by Hazuki K.

Background:Studio Blue Moon

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