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「圭ちゃん、足痛い」
 一番熱心に行きたがったクセに、一番最初に音を上げる。
 妹は、そんな子だった。
「……だから、草履なんて止せって言ったんだ」
 遠く、祭囃子が聞こえる。喧噪を逃れた神社の境内。
 ぼんやりとした提灯の灯りが、何とは無しに非現実感を与えていた。
「だって、浴衣って言ったら草履じゃない」
「そもそも、なんで浴衣なんだ」
「……お祭りって言ったら、浴衣だもん」
 俯いてそう言ってから、勢いよく顔を上げる。
「着たかったんだもん。仕方ないじゃない」
 確かに、と思う。
 母が、姉弟揃いで仕立てた浴衣。着ないのは無駄だと思うけれど。
 実際、自分は着てないし、姉だってそうだ。
 変につき合いのいい(あるいはノリのいい?)妹は、こういうのに常に参加したがる。
「歩けそうか」
「……痛い」
 溜息を吐く。
 こうなると、「面倒」の一言で自宅待機を決め込んだ姉が、酷く賢く思えた。
「ほら」
 屈んで背を向けると、躊躇い無く縋ってくる。
 ……まったく。自分は、何だかんだ言いながら、妹に甘い。
「……ね、圭ちゃん」
 耳元で、ねだる囁き。
「何だ」
「和ちゃんに、おみやげ買おうよ。わたあめとか、りんごあめとか」
 ぴしゃん、と。
 戯れに掬った金魚が跳ねる音。
 安っぽい電球の明かりが、少しずつ近づいてきた。

 ――ある年の、秋祭りの事。

2001.09.17 Onino featuring Hazuki

Graphics:Studio Blue Moon

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