TOP > Site map > 傍観する詐欺師 > 幻想水滸伝2

彼の手料理


「もしかして、ルックって味オンチ?」
 その時、ルュレシース城の一角は、ツンドラも真っ青の寒風が吹き荒んだ。
 一人、何処吹く風だったのは、当の発言者のみである。
「違うよ」
 その一言もまた、絶対零度の冷たさである。
「でも、何食べても不味いって言うし」
「不味いんだから、しょうがないだろ」
「そうかなぁ。ハイ・ヨーさんのお料理、美味しいじゃない」
 ――そりゃ、ナナミに比べたら誰の料理だって美味しいだろう。
 とは皆が思ったのだが、敢えて誰も口にしなかった。それが賢明な態度と言うものだ。
「ああ、でも」
 ごくさり気ない口調で、某英雄はこう宣った。
「ルックの料理は、本当に美味しいよ」
 そんなんいつ食ったんだ、とか、そういうあんたの味覚は大丈夫なのか、とか。
 思っても口に出せない輩が多い中、さすがに軍を率いる少年は何かが違うのか、
「じゃあ、僕も食べてみたいなぁ」
「そうだね。僕も久々に食べたくなったな。ルック、僕とライセの分、作る気無いかい?」

 かくして、俄かに料理大会が催された。
 対決者は無く、審査員に抜擢(自薦?)された、ハイ・ヨーとライセ、某英雄とナナミがテーブルについた。
 ルュレシース軍の面々が固唾を飲んで見守るそこに供されたのは、ごく単純なプレーンオムレツ。
「……食べれば?」
「ありがとう。いただきます」
 育ちの良さを垣間見せながら、ごく平然と口をつけたのは唯一人。
 見れば見るほど、普通の、ごく単純なプレーンオムレツ。
 しかし、その造形は料理の本でも飾っていそうな、極めて『典型的な』プレーンオムレツである。ハイ・ヨーが僅かに唸る。
 レキに続いて箸を伸ばしたのは、ライセだった。
 一口大に切り分けたそれを、はむ、とばかりに口に放る。観客は、固唾を飲んだ。
「あ、おいしー」
「だろう?」
 レキのはんなりとした笑みは、何とはなしに怖さがある。
 それをものともせず、そうですねー、とライセは屈託無い笑みを返して、残りを食し始めた。
「……む」
 ごく小さく切り分け、何度も噛み締めていたハイ・ヨーは、箸を置いて講釈を述べ始める。
 チーズと卵のバランスが絶妙とか、焼き加減が計算され尽くしている、とか。
 当のルックは当然とばかり、顔の筋肉一本動かさない。
 観客が(無責任にも)どよめいたそこで、初めてナナミが口をつけた。
「……美味しい」
 がっかりしたような、落ち込むような口調。
 どよめきに隠れたそれに、ルックは僅か、眉を上げる。
「なに」
「えー、だって」
「だって、なに」
 綺麗に食べてから、ナナミは箸を置いた。そうして、傍に立つルックを見上げる。
「これじゃあ、勝てないなぁって」
 ルックは一度、目を瞬かせた。
「ねぇ、今度、お料理教えて。ルックに教えてもらったら、きっと上手になりそう」
「……それは願い下げる」
「えー? どーしてよぅ」
「必要ないから」
 何でよぅ、とナナミは不平を呟き続ける。ルックはそれに答えず、空の皿を手に取った。
「もうひとつ、食べる?」
「うんっ! ね、ね、次はきのこのオムレツがいいなぁ」
「……わかった」
 その唇に浮いた微かな笑みは、誰にも見咎められることなく消えて。

 ――運命のその日まで、ナナミ専属の料理人が居たとか居なかったとか。


update:2001.09.16/written by Onino Misumi

Background:Studio Blue Moon

TOP < Site map < 傍観する詐欺師 < 幻想水滸伝2 > 通夜
>>掲示板>>メール