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通夜


 ――ぼく、は。

 誰も居ない、静まり返った厨房。
 夜も既に深い。そもそも、起きているのは歩哨くらいという、そんな時間。
「何してるんだい?」
 そんな時間の不意の声であったにもかかわらず、ルックは振り向きもせず、驚いた様子も見せなかった。
「そういう君こそ」
「何となく寝付けなかっただけだよ」
「ああ、そう」
 返答はそっけなく、そして失せろと言わんばかりの口調だった。だが、亡国の英雄は、大した痛痒を感じた風ではない。
「少し、何か食べようかな。作ってくれるかい?」
 返答は、一呼吸分、遅れた。
「――断るよ」

 ほんと、いっつも美味しいんだから。
 当たり前だろ。何言ってるんだ。
 だって、だってね。
 だって、なに。
 一度くらいは、わたしも勝ちたいじゃない。
 そんな必要、無いって言ってるだろ。
 どうして?
 ……どうしても。
 変なの。理由になってない。

 けれど。
 そうやって君が笑うから。だから。
 ――ぼく、は。

「本当に」
 ため息混じりの声だった。
「君は不器用なんだから」
「何が」
 人の悪い笑みが、夜闇を透かす。
「声も立てずに、そうやって泣くんだよ。君って人は」
 泣いてなんか、と思った。
 だって自分は信じてなんかいない。
 彼女が死んだなんて。
 そんな事が、ある筈がないから。
 だから涙なんて出ない。泣きたいとも思わない。
「なら、どうしてここに居るんだい? 誰も食べない料理を、どうして作る?」
「……黙れよ」
「どうして石版の前から離れる? 君だって、見たんだろう?」
「黙れ!」
 そう、見たのだ。名前の消えた石版。――そんなのは信じない。
 信じる、ものか!
「……今なら、誰も咎めやしないと思うよ。ご覧、城中が泣いている」
 静まり返った城。明日になればまた、戦いが続くから。だから今だけ、涙の淵に沈んだところで誰が咎められようか。
「そういう子だったんだろう?」
 ――君が好きになった、あの子は。

 好きとか、嫌いとか。
 そういう事じゃないんだ。
 ただ、あの子は笑うから。何があっても、何てこと無い風に笑うから。
 だからきっと。
 だからきっと、また笑って現れるに、違いないんだ。

 ここには、もう来ない。
 食べてくれる人が、居ないのだから。


update:2001.09.16/written by Onino Misumi

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