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Crime and Punishment


「ね、起きて」
 ……誰かが呼んでいる。
「起きてってば、ねぇ」

「起きてってば、マイシュ」
 まだ仲良くしたがっている瞼を、無理矢理に引き離す。自分を覗き込んでいるのは、調律者の少女。
「……私はもう少し寝ていたいの」
 手を振ると、今度はのしかかるような重みが襲った。
「起ーきーてー。今日は一緒に遊ぶ約束だったじゃない」
 観念して、起き上がる。満面の笑みを見せられれば、悪い気はしない。
「シトラ……あのね、私は昨夜、遅くまで研究室にいたのよ」
「兄さんの?」
「そう、カルカの手伝い。わかるわね」
 むーっとふくれながらも、シトラは譲ろうとはしない。もっとも、それがこの子の性格だと、私もよく知っていたのだけれども。
「でも、シトラとの約束の方が先だもん。今日は、アルミネとマイシュとシトラとで、湖まで遊びに行くの」
「はいはい」
 ベッドから降りると、シトラはやった、とばかりに飛び跳ねて回る。
「わーい、マイシュとおでかけ、おでかけっ!」
「先に行って、アルミネと待っていて。私もすぐ行くわ」
「うんっ! 待ってるからねっ!」
 出て行くのを待ってから、身支度を整える。ふと見た鏡に映る、自分の姿。自分では、そうおかしいものとは思わない。だけど。
「化け物、か」
 きっとそうなのだ、と思う。融機人。リィンバウムにとって異質なら、それは化け物なのだから。差別、蔑視、迫害……そんなものは、もう慣れた。慣れてしまっていた。
 そんな物思いは、ノックの音で覚めた。慌てて服を着込み、はい、と応じる。
「ごめん、まだ居たらと思って」
 はにかむように笑って。シトラと同じ、調律者に連なる青年――カルカという研究員だった。
「……シトラと約束があったんだよね」
「ええ、今から行こうかと。何か用があったから来たのでしょう? なに?」
 ぱっと喜色が広がる。そんな様は、妹のシトラによく似ていた。……違う、逆だ。シトラが、このカルカに似てるのだ。きっとカルカも小さい頃は、シトラのようによく笑って、よく跳ね回る子供だったに違いない。調律者、運命を律する一族、なんて呼ばれている彼らが、こんなによく笑ってよくはしゃぐ人達ばかりだとは、そう知られていない事実だろう。
「悪いね。
 この間、入手した素体なんだけど、機械との融合が上手くいかなくて、動く前に壊れちゃうんだよ。どうにかならないかな」
「資料を見せて」
 はい、と差し出されるそれに、ざっと目を通す。
「これだったら、マガーの所にある薬で治るんじゃないの?」
「あ、そうなの? ……ちぇ。兄さん、さては知ってて、高みの見物してやがったな」
 さも悔しそうな物言いに、つい笑みが洩れる。カルカは悔しそうな、照れくさそうな、複雑な表情を浮かべた。
「もういいなら、私、行くわね」
「ああ、ごめん。手間取らせて」
 いいのよ、と手を振る。行きかけたそこに、そうだ、と声をかけられた。
「マイシュ、トゥラム女史に注意しとけよ。何か、犠牲者探してうろついてたから」
 その言い様は、笑いを誘うものだった。トゥラムもまた、調律者の一族。彼女は研究熱心なだけで、別に誰かをどうこうしようという訳ではないことを、誰もが知っていた。ただ、時としてそれは「犠牲者」と呼ばれるだけの被害をもたらしてしまう、それだけなのだ。
「ミトゥンさんとアルミネに会ったら、同じ事を伝えてくれよ」
「父さんもなの? ……わかったわ、伝えておく」
 建物の外には、アルミネとシトラが待っている筈だ。きっとアルミネは「いつもの事ね」と笑うのだろう。研究にも嫌な顔ひとつせず付き合う、お人好し天使様。

 ――ああ、でも。
 何故かしら。彼女の顔が、思い出せない。

「あ、来た来た。マイシューっ! こっちこっちーっ! 置いてっちゃうぞーっ!」
 ああ、やっぱり。
 アルミネは、いつもみたいに笑っている。シトラと一緒に、楽しそうに。
「早く――」

「起きないとご飯、なくなっちゃいますよ」
 ぱちくり、と瞬いて。
「あれ……」
 くすくす笑っているのは、聖女を冠された少女。
「お目覚めですか? ネスティさん」
「……僕は」
「うたた寝してらしたんですよ。さっきまで、トリスさんも起こしていたんですけれど」
 身動ぐと、膝から本が落ちた。……ああ、そうか。本を読んでいて、うとうとして、それから……。
「疲れてらしたんですね。でも、ご飯は食べないといけません」
 難しい顔で言ってから、ふっと、ほころぶように笑う。何処か懐かしい笑顔。
「あ、やっと起きた。もう、ネスが起こされるなんて、珍しいったら」
 言いながら入ってきたトリスは、ほら、とばかりに腕を引っ張る。
「早く行かないと、ご飯、食べ損なっちゃうじゃない」
「……珍しいな。君が食事より他を優先させるとは」
「ネスが居ないのがいけないんでしょう!?」
「さぁさ、お二人とも。今日はおいもの揚げ物ですよ」

 柔らかくて、懐かしくて……不意に胸が痛んだ。
 僕はいつまで、彼女に黙していられるだろう。いつまで、知らせずにいられるだろう。
 この穏やかさを、いつまで。


update:2002.01.09/written by Onino Misumi

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