TOP > Site map > 傍観する詐欺師 > SummonNight_index > SummonNight-2-

君と僕と夜の静寂しじま


 堅い、真面目、とっつきにくいの三拍子。ああいう人間がああいう生き方をするのは、割に多い事だ。周りをロクに見ようとしない、窮屈な生き方。
 だからついつい、御節介とは解っていたが口を出した。

「よ、眠れないのか」
 そう声をかけると、冷たい一瞥が流れてきた。笑いかけてやると、ため息混じりで視線を戻す。側に寄っても鬱陶しがられなくなっただけ、かなりの進歩だと思った。
「目が覚めただけだ」
「それを眠れないって言うんだぜ。そら」
 軽く放ったそれを、危なげなく受け取る。
「飲めるんだろう?」
 月明かりの下でラベルを確かめ、顔を顰めた。
「まったく……何処から持ち出したんだ?」
「決まってんだろ? 地下倉庫」
 苦い笑い。それでも、突き返す気はないようだった。
「君もか」
「まーな。柄にもないって笑うか?」
「いや」
 短い応え。
「……グラスは?」
「そんなお上品に飲む酒じゃねぇよ。ほら、貸せ」
 封を切り、栓を抜く。口を付けてから渡すと、困った風に顔を歪めてから、口を付けた。味オンチと定評のあるところだが、味覚と酩酊感は別物だ。顔を顰めてから、こっちに差し出す。
「口に合わないか?」
「……多分」
 ため息混じりに。さして強い方ではないようだが、まぁ、それでいいんじゃないかと思う。こういう時は、とっとと酔いを回して、寝てしまうに限る。
「無理でも飲めよ。楽に寝られる」
「……ああ」

 場所を食堂に移す。何と言うか、夜に男二人差し向かいで飲んでるという構図も、あんまり見目のいいものじゃないだろう。
 酒は、「グラスで飲む上品な」類になっていた。……どうやら、弱いわけでもなかったらしい。
「なぁ、ひとつ訊いてもいいか」
 注ぎながら問うと、奴は少し、目を上げた。
「何だ」
「トリスの事だよ」
 ほーら、顔色が変わりやがった。素直なのは可愛いくらいだ。
「お前、トリスをどう思ってる?」
 本当は、訊くまでもない事。だからこれは、御節介の延長だ。見ていて、どうにももどかしいから。
「……どう、って」
「解ってんだろ」
 自嘲に似た笑み。そういう、翳りとも言える表情が妙に似合うのは、こいつの負ってきた、いろんな柵が成せる業なのだろう。
「……誰よりも」
 その声は、かなり低かった。注意しなければ聞こえないような、そんな。
「ん?」
「誰よりも大事な、女の子だ」
 ――もうちょっと、言い様ってのは無いのか?
 俺は呆れたのだが、こいつにしてみれば、それが精一杯の表現だったかも知れない。
「ふん?」
 俺の反応が、気に障ったらしい。奴は顔を上げて睨んできたが、頬を透かす赤味は、酒の所為ばかりとは言えなかった。
「何故、そんな事を」
「訊いておきたかっただけさ。そうだな、強いて言うなら、確認ってやつかな」
「確認?」
「そ、確認。……まぁ、そういう事なら、言えるうちに言っちまえよ。トリスは鈍いからな」
 こいつも、大概鈍いんだが。
「……言う必要が何処にある」
「言っとけって。どうなるか判んねーだろう?」
 俺もお前も、とは、言わなかった。そんな事、言わなくたって判るだろうから。
 案の定、奴は口を閉ざした。そう思うから不安で、不安だから眠れなかった。多分、部屋から出てこないだけで、この屋敷にいる殆ど連中が同じだったろう。
「俺は、単に飲みに来ただけだがな。お前さんは、つい起きて来ちまうくらい、寝られなかったんだろう? 心残りは、少ない方がいいさ」
「言えるわけが無いだろう! こんな事で、気持ちを乱している場合じゃないんだ」
 やっぱり気づいてないか。
 そう思うと、いっそ微笑ましい。
「それに」
「ん?」
「僕は、どうなるか判らないとは、思っていない」
 一瞬、強がりかと、そう思った。
「必ず生きて戻る。そうして、初めて全部が終わる。だから」
 それ以上、奴は続けなかった。グラスに残っていた酒を一気に干して、至極落ち着いた所作で席を立つ。
「おい、ネスティ?」
「もう休む。……つきあってくれて、ありがとう」
 俺は、呆気にとられてしまった。
 だから、奴が揺らぎもしない足取りで去るのを、うっかり止めないでしまった。
「ありがとう、だってよ」
 一人呟く声が、食堂に響く。
 そんな事、言われるなんて思わなかったから。
 だから逆に不安を覚えた。揺らぎない言葉と姿勢と、その静かさに。
「あいつ、何考えてやがる……?」
 この時に、あいつが覚悟を決めていたとは思わない。そもそも、あの事態を予想するというのは、かなり無理な話だ。それでも、あれから時々思った。あいつは、どういう事になっても、こうするつもりだったんじゃないかと。

「なぁ、ネスティ?」
 見上げる梢に問うてみる。たった一人の女の為、世界を救った馬鹿な奴に。


update:2002.01.10/written by Onino Misumi

Background:Little Eden

TOP < Site map < 傍観する詐欺師 < SummonNight_index < SummonNight-2- > 手を伸ばして、繋ごう。
>>掲示板>>メール