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Missing


 偶然にも二重誓約によって得た護衛獣・モナティの導きによって、訪れる事となったサイジェント。彼女の本来のマスターがどんな人物なのか少なからず興味があったので、こういう事態にならずとも、いつか会いたいと思っていた。
「けど、驚いたなぁ。モナティのマスターがエルゴの王の後継者だなんてね……」
「えへへー」
 まるで我が事のように照れながら、モナティははりきって口を開いた。
「すごいのは、マスターだけじゃないですの。マスターをこの世界に呼び出すきっかけを作った人も、すごい召喚師なんですの」
 ――凄い、かぁ。
 同じ召喚師としては、更なる興味をそそられるところではある。
「ねぇ、モナティ。その人ってさ、男の人? 女の人?」
「男の人ですの」
「それじゃ、性格はどんな感じなのかな。行動派? 理論派?」
「理論派ですねぇ」
 おっとりと、モナティは答える。男の人で理論派と聞いて、真っ先に思い浮かんだのは兄弟子の顔だった。
「キールさんと言って物静かで、落ち着いた感じの人ですの。物の考え方なんかはギブソンさんに近いかも知れませんね」
「そうなんだ……」
 ……うう、ますますネスに似てるかも。
 そう思い、密かにため息をつく。そんなトリスに気がつかないのか、モナティは嬉々として続けた。
「そうそう。マスターのお名前はトウヤと言うんですの。とぉっても優しい方なんですの」
「へぇ、そうなんだ」
「いっつも、何でも先を考えてて、とっても頼りになるんですの。キールさんとも、とっても気が合ってるんですよ」
 そう聞いていたから、いざその人達を前にした時、先入観が全くなかったとは言い難かったかも知れない。
「挨拶が遅れてしまって申し訳ない。僕がトウヤです」
 穏やかに言うその人は、なるほどモナティの言うとおりだった。優しそうな笑顔が印象的だ。
「モナティの面倒を見て下さって、本当にありがとうございます」
「あ、気にしないで。元はと言えばあたしが二重誓約しちゃった所為なんだし」
「そのとおり。悪いのは、こいつです」
 例によって例の如く繰り出される毒舌を、アメルがフォローする。とほほ、と首を竦めるトリスに、もう一人の声がかかった。
「いや、誓約の更新をしていなかったのはこちらの責任ですよ」
 トリスは、あれ、と思った。穏やかな口調は、トウヤのそれとよく似ている。声もそうだ。だが、それは目の前にいるトウヤの口から発せられたものではなかった。ふと顔を上げたトウヤが半歩振り返る。トリスの視界に、彼の影にいた人物が入ってきた。……召喚師。
「そうだろう? トウヤ」
「わかってるよ、キール」
 ……ぞくっ。
 トリスは思わず、自分を抱くように腕を回した。何か、急に辺りの気温が下がったように感じられたのだ。
 この人が、モナティの言ってたキールさんなんだ。
 トウヤの呼びかけでそうと知れたが、何だか『気が合ってる』と言うのとは、ちょっと違うような空気が漂っている。……何だろう。
「そういうわけですから、あまり気にしないでください」
「あ、うん……」
 気の所為、だよね。
 トリスは努めてそう思う事にした。
 だが、この時に感じた違和感は、黒の旅団を迎撃する戦いで更に強められる事となったのである。

 凄まじい軍勢を前に、モナティはあっさり「マスター達にお任せですのっ!」と言い切り、カイナもカイナで「見ていていくださいな」と全幅の信頼を見せる。その声に笑顔で応じるトウヤは、確かに頼もしいには違いなかった。だが
「行くよ? キール」
 そう言った彼の表情は、笑顔と呼ぶにはあまりに怖いもので。
「わかった」
 応じる方も応じる方で、いっそ冷たいと思う程の声音。
 な、何でみんな、当たり前みたいに平然としてるのよ〜。
 敵の軍勢より、この二人の醸す空気の方がよっぽど怖い。そう思うトリスである。それとも、そう感じる自分の方が変なのだろうか。
「至源の時より生じて悠久へと響き渡るこの声を聞け」
「護界の意味を知り、その命を果たす者へと大いなる力を。セルボルトの名の下にキールが命じる……」
「誓約者たるトウヤが、汝の力を望む……力を貸してくれ」
 差し伸べた手が、続く声が、寸分違わぬ同時。
「出でよ!」
 召喚された異界の友と放たれるその威力。すごい、と周囲から洩れる。あれが、とはネスティの声だった。トリスも瞠目し、継いで放った二人を見た。
 よく似ている二人だと、そんな風に思う。こんなところを見せられると、確かに気が合っていると言う話も嘘とは思えない……のだが。
 いざ戦闘が始まると二人の働きは凄まじかった。誓約者と、そのパートナーたる護界召喚師の名に恥じぬ戦い振りと言えただろう。それでも、どうしてもトリスには、二人が協力し合っていたようには思えなかった。
 マリルの岩棚は、高低差が激しい地形だった。故に、立ち位置がいろいろと面倒であった。大きな召喚術を迂闊に使えば、仲間を巻き込む事になりかねない。そう危ぶむトリス達を尻目に、トウヤの召喚術は容赦の二文字が皆無だった。そしてそれは、キールも同様だったのである。互いに余波が届こうが何だろうが、全く頓着していないのだ。
「……殺す気かい?」
「君がそのくらいで死ぬ筈がない」
 にこやかな問いと、愛想の欠片もない返答。あれはもう、信頼し合っているとか、そういうレベルの話ではないとトリスは思う。さすがに二人とも、他の仲間にまで同じ事はしていなかったのだが(誓約者と護界召喚師にそんな真似をされては、仲間にも人死にが出たに違いない)。
「キール」
 それは密やかな声だった。戦いの中でトリスがそれを聞き咎めたのは、単に近くにいたからでしかない。うっかりそちらを見たトリスは、次に信じがたい光景を見た。微笑んだトウヤがキールの手を取るや否や、勢い良く放り投げてしまったのである。
「!?」
 トリスは咄嗟に、声が出なかった。高い位置に放り上げられたキールは、ややふらつき気味ではあったが、どうにか無事に着地する。
「トウヤっ! 君は――」
 上げられかけた抗議を右から左に。トウヤはついとキールの後ろを指さした。そこは、敵の真っ直中。
「頼むよ」
 笑ってるから、余計に怖い。
 トリスは、自分の感じた違和感が、間違いではないと確信した。この二人は、気があっていると言うよりも、むしろ……。
「トウヤ、そこを動くな!」
 切迫したその声に、トリスとトウヤは同時に振り仰いだ。瞬間、白い影が降り、継いで難なく着地する。
「すまない、足場にさせてもらった。敵は片づけて来たよ」
 あの……爽やかに言ってますが、トウヤ、顔を押さえて蹲ってるんですけど……。
 足を引っ張っているのとは少し違うと思うが、どう見ても『互いに利用し合っている』としか思えない。
 何かおかしいよぉっ!
 そう訴えたく思って周囲を見渡せど、その様子に気づいた仲間は、他にいないようだった。あるいは、見て見ぬふりをしているだけなのかも知れなかったのだが……。
 デグレアの将ルヴァイドが悪魔に操られていたが為に戦いの終息には慌ただしさが付随して、結局のところ誰もトリスの疑問にも不審にも答えをくれなかったのだった。

 夜。宛われた部屋で、トリスはモナティに尋ねてみた。あの二人は、本当に仲が良いのかと。もちろん、とモナティは頷いた。
「マスターは、キールさんにだけ見せる笑顔があるんですの」
 そうと言えば聞こえはいいが、あの怖い笑顔がそうだと言うのなら、何か違う気がする。
「マスターは優しいですけど、本当の顔は、誰にも見せないんですの」
「本当の顔?」
 うにゅぅ、とモナティは頷く。
「本当の顔は、キールさんにだけなんですの」
「……よく、わかんないんだけど」
「だからですねぇ」
 モナティは、よいしょ、とベッドに乗り上がった。
「マスターはキールさんが大好きなんですの」
「???」
 ぽん、と枕をひとつ叩いて。
「大好きで大事だから、意地悪しちゃうんですの。モナティ、この一年でよーっく判ったんですの」
「……わかんないよ、モナティ」
 けれどそれ以上、モナティは答えてくれなかった。仕方なく横になったトリスだが、気になってなかなか寝付けない。
 どう考えても、あの二人の態度は、仲の良い人間同士の事とは思えなかった。
 力量としては申し分のない助っ人だった。二人が、そしてその仲間達が一緒に来てくれれば心強い。だが、あんな状態で、本当に大丈夫なのだろうか。最後の決戦でもあんなようでは、どちらかが命を落としかねないのではないだろうか。そうなれば、頼みに来た自分の所為でもある。
 まさか、どっちか来ないでください、なんて言えないもんなぁ……。
 何度か寝返りを打ち、観念して起き上がった。

 話し声に気がついたのは、外に出てすぐだった。声のした方を振り仰ぎ、慌てて壁に貼りつく。屋根の上に見えた影はふたつ。そしてその声は、トウヤのものだった。
「つまり君は」
 ため息混じりのそれは、キールの声。
「僕にここに残れ、と言いたいんだね」
「そうだよ」
「そうなると、誰が君の踏み台になるんだい?」
「……今日、僕を踏み台にしてくれたのは、君だったような気がするんだけど」
「そうだったかな」
 沈黙が流れる。
 ……これの何処が?
 トリスは心の中でモナティにつっこんだ。この険悪な雰囲気の、何処を見て仲が良いと言えるのか。だが、キールが残るのであれば、密かに願ったり叶ったりである。心配が半分になる。
「とにかく、君は残ってくれ。僕は連れて行く気はない」
「――と言えば、僕が是が非でもついて行くと、そう思っているんだろう?」
「なんだ。ばれてるのか」
「残念だが、そんな事をしなくても、僕は君と一緒に行くつもりだ。安心していい」
 ……え?
 トリスは思わず、身を乗り出した。屋根の上の影は、相変わらずふたつ。その距離を縮めるでも広げるでもなく在り続けている。
「それはどういう?」
「危険人物を野放しに出来る程、信用していないんだ。僕が目を離したら、世界のひとつやふたつ平気で壊しかねないだろう? 君は」
「そこまで酷いかな」
「自覚が無いのなら、重症だ」
 くすくすと忍び笑う声。
「傷口の心配は、しなくていいのかい?」
「らしくない事はしなくていい。君こそ、同族と戦うのに躊躇は……ああ、悪魔は感じたりしないのかな」
「……酷いな」
 夜を憚ってであろう、抑えられた笑い声。その影に隠れるようにそっと笑った声を、トリスは聞いたような気がした。

 高速船の中、トウヤとキールは相変わらず不仲さを見せてくれていて。トリスはますます、訳が判らなくなってしまった。屋根の上で会話を交わしていた二人からは、モナティの言葉を肯定するものが、何となくだが感じられたのに。
「……ねぇ、ネス」
 なんだ、と声にならないものが応じる。
「トウヤとキールって、仲がいいのかな」
 かち、という微かな音は、ネスティが眼鏡をかけ直す音だ。見れば、ネスティは目を伏せ、ため息をつきたそうな顔をしていた。
「仲の良し悪しは、周りが判断するものじゃないだろう」
「むー……」
 だが、と。ネスティは視線を伏せたまま、続けた。
「互いに互いの力を信用しているのは、間違いないだろうな」
「うーん……そういう事なのかな、やっぱり」
「おそらくな」
 トリスは腕を組み、眉をひそめた。
「じゃあ、あたしも一度くらい、ネスに向かって召喚術かました方が……」
「……トリス」
「や、やだなぁ。冗談よ、冗談」
「そんな事をわざわざしなくても、君の召喚術の暴走は、いつもの事じゃないか」
「……ぅ」
 さしあたって、信頼の表現はいろいろあるらしい。トリスは、そう結論づけた。それが知れただけでも、サイジェントへの旅は無駄ではなかったかも知れない。
 ……ネスの事も。
 このカタブツメガネな兄弟子の意地悪も嫌味も、そういう意味だと思っていいんだろうか。
「思っておきたいなぁ……」
「何がだ?」
「ううん、何でもない」
 もしそうなら、とても嬉しいのだけれど。

実はおまけがあります、のこと。
― vsレイム・メルギトスさんの暴言篇 ―


update:2002.03.12/written by Onino Misumi

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