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機械仕掛けのダーリン


 よくよく分析してみれば容易に判っただろう事を知れなかったのは、それを隠していた彼が、『機械兵士』という物をよく理解していたからであろう。
 それが、ネスティが融機人だと知った時の、レオルドの感想だった。それを前提にして記憶を検索してみれば、自分が融機人について口にした時の彼の様子がおかしいかった事にも気づくし、彼のロレイラルに関する深い知識も納得出来た。むしろ気づけなかった方がどうかしているとさえ言えただろう。
 データを書き直さなければいけない。自分のデータには、融機人が滅んでしまったと記録されている。
 ネスティがやって来たのは、ちょうど、そのデータを書き換えしようとしていた時だった。
「直す必要は無い」
「何故デス? 貴方ハ融機人ダ」
「僕が最後の一人だ。滅んだのと同じだろう」
「明ラカニ違イマス。貴方ガ生キテイル限リ、融機人ガ滅ンダトイウでーたハ誤リデス」
 ため息の後に続く言葉は、かなりの高確率で予想出来た。
「好きにしろ」
 もちろん、レオルドはそうするつもりだった。誤ったデータは、正しい物に修正されなければならない。
「……そうだな」
 何を思いついたのか、彼はそう呟いた。
「レオルド。君のシステムをチェックしておきたいが、いいだろうか」
「ソレハ構イマセンガ」
 何故、今なのだろう。自身が融機人だと知れたからだろうか。それとも、何か他に理由があるのだろうか。
「理由はみっつある」
 自分にアクセスして、ネスティは静かに告いだ。
「ひとつは、これから戦いが激化するであろうから。戦いの最中にシステムエラーを起こされたら困る」
 システム越しに伝えれば一瞬であろうところを敢えて口にするのは、多分、レオルドの主に接する時の癖、そのままなのだろう。あるいは、システム越しに伝える事に慣れてないだけで、そうと思いつかなかっただけなのかも知れない。
「ふたつめ。前々から、君に蓄積されているデータを見せて欲しかった。僕のデータと照合して、足りない部分は補いたいし、補わせて貰いたい」
 それはレオルドとしても願ったり叶ったりと言うところだろう。ネスティの持つデータ、特にリィンバウムに関してとトリスに関して、レオルドは圧倒的に足りない。それらのデータが増えれば、今後何かと役に立つだろう。
「みっつめ。少し君と、話がしてみたかった」
「自分ハ、会話ノすぺっくガ――」
「そういう、技術的な話を抜きにして、だ」
 繋がっている所為だろう。彼の、自嘲と呼べる心の動きが、少しだが伝わってきた。
「僕はライルの、最後の生き残りだ。もう随分、こうして他と繋がった事がない」
 共有と言う名の、ロレイラル特有の伝え方。真っ直ぐに歪まずに、余すところ無く伝えられる、伝達方法。確実に相手の真意を知る事が可能な方法は、時に多くの争いを生みはしたが、それでも廃れる事はなかった。それは、その行為そのものへの依存があったからだ。
 繋がっている、という事。そこから生まれる安心感への依存。
「僕は、ずっと独りだった」
 ネスティから伝わる『孤独』は、レオルドのデータには無いものだった。人間の、感情のデータは少ない。貴重な物だと判断する傍らで、別な判断も生まれていた。これは危険なものだ、と。それを知ってしまえば、もはや知る前には戻れない。知る前には感じる事の無かった筈の『寂しさ』や『疎外感』といったものを感じるようになり、『虚無感』を得るだろう。それは機械兵士に在らざる感情。そして、全く必要のないものだ。
 危険だ、と告げるシステムの声を聞きながら、レオルドはその『孤独』を受け入れた。何故そうしたのか、整合性のある答えは弾き出されてこなかった。「解析不能」の文字が、意識野に現れる。僅かに出された答えは、それが融機人の中にある『肉』の部分をデータ化したものだろう、との事だけだった。
「君が来た時には、正直、焦ったよ。『共有』を求める衝動に耐えられるだろうか、とか、君がいずれ、僕に気づくのではないか、とか。……この現実を前に、あまりに小さい心配だったな」
 その時、ネスティの意識野に浮かんだのであろうイメージが、レオルドの中にも流れてきた。あたたかく、やさしく、そしてとても鮮やかな色彩を持った、少女の姿。その少女の為に、どんな犠牲も厭わない気持ち。
 ああ、これは知っている。自分の主だ。自分が主と居る時にも感じるものだ。
 これを示す言葉を、自分はちゃんと知っている。『愛オシイ』だ。特別だと判断させる『想イ』だ。
 伝わってくるデータは、自分が知っていて、且つ持っている『想イ』よりも、ずっと緻密なものだった。

「……スキャン完了。システムに異常なしだ」
「アリガトウゴザイマス、ねすてぃ殿」
「ね、ネス……っ、今のは???」
 その声に振り返れば、主の姿がそこにあった。目を白黒させているところから察するに、自分達がしていた事を見て、それが何なのか判断出来ない、というところだろう。
「レオルドのメモリに異常がないかチェックしていたのさ」
 それは確かに誤りではない。だが、少し足りないと判じられたので、付け足した。
「でふらぐヲ兼ネテ互イノ情報ノ交換モ行イマシタ。殆ド一方的ニ自分ガでーたヲ貰ッタヨウナモノデスガ」
「いや、君とのアクセスは、僕にとって有意義なものだったよ。なにせ……」
 ネスティの雰囲気が速やかに切り替わる。そう、それはまるで、周囲の空気さえ彼の制御下にあるかのような、速やかな変化だった。……融機人に、そんな機能はあっただろうか。
「君の主人が、日頃僕の事をどのように評価していたのか、知る事が出来たからね」
 上げられる驚愕の声音。そうか、こちらが知れた分、向こうにも知られるのは至極当然。
「そこへ座るんだ、トリス」
「れっ……レオルド! 告げ口するなんて、この裏切り者ーっ!?」
「不可抗力デス……」
 そうとしか言い様がない。いや、そもそも主に不利益な事を伝えているとは、ちょっと判じがたいのだが。
 そんな事を思うレオルドの目の前で、さて、とネスティが腰を落ち着ける。
「カタブツメガネとは、誰を指した固有名詞なのかな?」
 笑って誤魔化そうとしている主は、多分気がついていないのだろう。明らかな造り笑顔の、その奥。本当の笑顔と『想イ』に。
 それを主に教えるか否かを考えたレオルドは、愕然とした。そのデータにプロテクトがかかっていたのだ。これでは、口に出そうにも出せない。出したくても出せない。
「ねすてぃ殿……」
 ちらりとレオルドを見たその目は、明らかに笑っていて。
 孤独を知る融機人は、繋がりを渇望する反面で、酷く気持ちを隠したがる人なのだ、と。
 レオルドは、悟らざるを得なかった。


update:2002.03.24/written by Onino Misumi

Background:Little Eden

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