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お寝坊さんを起こす五つの法則


 目覚めを強制してはいけません。そんな事をすれば、ますます意固地になるでしょう。人間、誰しも心地よい環境を求めるもの。目覚めが心地よい環境となれば、自然と起きる事が苦ではなくなります。
 まずは、その人にとって好ましい環境を作りましょう。好みの音楽をかけるのも良いですね。ただし、好みだからと言って騒々しい音楽はタブー。何事も、自然に目覚めが訪れるよう計らわねばなりません。
 次に、空腹感に訴えてみましょう。古く、朝食を「断食明け」などと表するように、夜の間に何も食べていない事がもたらす空腹感は、その人が健康であれば、強く訴えかけてくるもの。温かな朝食を用意する事で、その匂いを利用しましょう。嗅覚から空腹感を訴えられると、意外に効くものです。
 部屋を明るくするのも忘れずに。カーテンや鎧戸は必ず開けましょう。朝の陽射しは、体内時計のリセットを促します。一日の区切りが身体の中でつけられる事によって、目覚めは自然に訪れるものとなります。
 寒い季節や寒冷地にお住まいならば、室内の温度にも気を配りましょう。夜具の中から出るのが億劫であればある程、目覚めは疎ましい存在となります。
 全てが調ったなら、あなた自身で声をかけましょう。その人が、あなたにとって大切な人であれば尚更です。優しく名前を呼んでみましょう。容易に起きないからと言って、焦ってはいけません。あなたとその人の関係を良好に保ちたいのであれば、焦りは禁物です。この場合、かける言葉は目覚めを強要するものではなく、軽い挨拶程度が望ましいでしょう。

 ご主人様、と呼ぶ声に、長い髪が翻った。
「レシィくん? どうしたの?」
 おろおろと目を潤ませて、メトラルの少年は足早に台所へと駆け込む。
「ご主人様がいないんです」
「いない? 部屋に?」
「はい。お部屋にも、井戸端にも、何処にもです」
 うーん、と包丁片手に首を傾げる。
「じゃあきっと……」
 見交わす目にある、他に考えようのない答え。
「……じゃ、ぼく、上着を持って行きますね」
「ならあたしは、温めたミルクと、焼きたてのパンでも持って行こうかな。木の下の朝ご飯も素敵よね」

 むーっとふくれっ面を仰がせて、トリスは呟く。
「ネス、いい加減に起きてよ」
 その手にあるのは、薄い、冊子と言って差し支えの無いような本。
「ネスの言うとおり、本っていろいろ書いてあるのね。ちゃんと読んだんだから」
 ネスが好きなもの、たくさん用意して待ってるのに。
 早く、と言いかけて、トリスは慌てて口を押さえた。目覚めを強要する言葉をかけてはいけない、と本にあったではないか。
「……でも」
 他にかける言葉なんて、見つからない。こっちはもう、待ちくたびれそうなのに。
「ほら、ネスが読みたがってた本。先輩が持って来てくれたんだよ? 起きてこないと読めないよ?」
 この本だって。
 先輩達が差し入れてくれた、たくさんの本の一冊だった。
 ――余計な知識ばかり詰め込まないで、もっと実用的な事を学んだらどうなんだ?
 そんな、皮肉げな声が聞こえてきそうな気もするけれど。
「ちゃんとこの耳で聞けなきゃ、言う事なんてきいてあげないんだからね」
 ――そもそも君が、僕の言う事なんてきいた試しがあったか?
「文句言ってないで、早く起きてきてよ。先に読んじゃうんだからね?」
 ――ああ、そうしてくれたら嬉しいね。君が真面目に勉強する気になったんだから。
「……意地悪」
 ねぇ、早く帰ってきて。
 寂しさで潰れちゃわないうちに。

 さわさわと揺れる葉の間。朝日は眩しいくらいに降り注いで。
 どうやら今日の朝食は、本のとおり、彼の傍でになるらしい。


update:2002.03.28/written by Onino Misumi

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