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いくつ語り終えても
Diary


「兄さま」とたどたどしい口調で呼んでいてくれた頃から知っている。
 本当の兄妹でないと知って、名前で呼び合うようになって、それでもずっと一緒にいた。
 だから、と言うのでもないけれど。
 彼女が隣にいるのが、あんまりにも当然で自然だった。

 コノートを発してからこっち、ナンナとアレスは急接近していた。事情はリーフも聞き及んでいる。アレスがエルトシャン王の遺児であり、ナンナにとっては従兄にあたる人であるのだ。ましてナンナは、母であるラケシスから預かった書簡がある。一緒にいるのは当然と言える――かも知れない。
 マンスターまでの行程は、初めてナンナと別行動を取るという結果になった。リーフは後続部隊をまとめる指揮官であり、この護衛にはフィンとデルムッドが選ばれた。他は、マンスター攻略へと馬を走らせているのである。隣が寂しいという思いは、ますます募る。
 気にならない、と言ったら嘘だった。アレスは腕の立つ騎士であったし、何より、同性の目から見ても美形と言って差し支えのない容貌を持っているのである。ナンナは優しくていい子で……こっちには非のつけようがないように、リーフは思っていた。実際、解放軍の中では、ナンナに想いを寄せる者がないわけではない。それを今までは、少し誇らしいくらいの気持ちで見ていたのだが……。
「リーフ様、どうかなさいましたか?」
 心配げにデルムッドが尋ねる。作り笑いを返しながら、
「ああ。ナンナは大丈夫だろうかと思って」
 その言葉に、デルムッドが笑顔で応えた。
「そうですね。でも、きっと大丈夫ですよ。アレス殿が一緒なのですから」
 これでは追い打ちである。デルムッドにその気がないのがわかるだけに、ぐさりと突き刺さるものを感じるリーフだった。
 ――やっぱり、そう見えるのか……。確かに、あの二人が並ぶとお似合いだよな。
 きりきりと締めつけるような痛みが、リーフの胸を襲った。
「リーフ様? お顔の色が優れぬようですが」
 気遣わしげにフィンが馬を寄せる。ああ、とリーフは応じた。今度は作り笑いを浮かべる必要はなかった。
「ちょっと胸が痛くて」
「それはいけませんね。誰かシスターを……デルムッド、誰か呼んできてくれ」
 しかしライブで治るものならば、誰も苦労はしないのだった。

「リーフ様!」
 マンスター城下で、リーフ達は先発隊と合流した。城内の広間に人が集まりつつある。その中に立つリーフを目に留めて、ナンナが駆け寄った。
「ご無事で……」
 涙さえ浮かべそうな勢いに、リーフは戸惑った。離れていて、そんなに不安だったのだろうか。……もしかして自分、信用されてない?
「ああ。ナンナは?」
 ぱっと、まるで日が射したように明るい笑顔が、ナンナの顔を彩った。
 ――どきん。
「はい、大丈夫です」
 ――あれ?
 リーフは思わず胸を押さえた。心臓が、まるで全速力で疾走した後のように、ばくばく言っている。
「リーフ様?」
 ナンナが怪訝そうに覗き込む。ますます、心臓の動きが早くなった。
「何だか、お顔の色が――」
 白い手が伸ばされる。リーフは反射的に、その手を避けた。え? とでも言うように、ナンナが大きな目を瞬かせる。
「リーフ様……?」
「あ、いや、その、何でもないんだ」
 そう言って彷徨わせた視線に、フィンとデルムッドの姿が映る。
「あ、ほら、フィン達だ」
 指さされた方を見て、ナンナは顔をほころばせた。
「お父さま、お兄さま!」
 軽くリーフに礼をしてから、ナンナは父と兄に駆け寄った。嬉しそうに話をしているのを、少し離れた場所から眺める。親子水入らずのところを、邪魔するものではない。
 ――そう言えば、アレスの姿が見えないな。
 リーフは辺りを見回した。デルムッドに劣らず長身のアレスである。たとえ人の集まる広間であろうとも、目立つのだが。
 少し迷った後、リーフはナンナに尋ねることにした。近づいてくるリーフに気づき、フィンが礼をとる。
「すまない。ナンナ、ちょっと訊きたいんだが」
「はい、リーフ様」
「アレスは何処に? 一緒ではなかったのか?」
「アレス殿は……山向こうにある開拓村の様子を見に行かれました。戻られるのは、夜になるとのことです」
 ナンナの瞳が急速に翳った。そんなに心配なのだろうかと思うと、あの痛みが鋭く胸に蘇ってくる。
「じゃあ、私はセリス皇子に会ってくるよ」
 踵を返し、歩調を早める。これが逃げである事を、リーフは自覚していなかった。

 セリスの元へ今後の軍の指針を聞きに行き、ついでに他愛のない茶飲み話に興じる。初めて対等と言える立場の友人を手に入れて、リーフは自覚のないところで、かなりセリスに「懐いて」いたのだ。
 話の合間にため息ばかりつくリーフを、セリスは敢えて気づかぬ振りをし続けた。
「ところで、リーフ」
 頬杖をついて、セリスが何気ない口調で言った。
「最近、軍の中で噂があるの、知ってる?」
「噂? どんな」
 それが、とセリスは声を低くした。何気なく、リーフは身を乗り出す。
「アレスとナンナが従兄妹だって話は知っているだろう?」
 頷くと、意味ありげな笑みがセリスの顔に浮いた。
「つまり、アレスのお父上とナンナのお母上が兄妹だったんだけれど……この二人が、実は愛し合っていた、というんだ」
 リーフは、数秒の間、絶句した。
「だって……兄妹なんでしょう?」
「そう、腹違いの兄妹だったんだってさ。『兄ような人でないと結婚しない』って、ナンナのお母上は明言されていたそうだけれど」
「でも、実際にナンナが生まれて……」
「うん。まぁ、問題はそこじゃなくてね」
 じゃあ何処に、とリーフは剣呑な視線をセリスに向ける。
「そういった報われなかった想いが、アレスとナンナにあるっていうのが、噂の本体」
 意味を計りかね、首を傾げる。つまり、とセリスはやや声を低めた。
「アレスとナンナが愛し合ってる、っていうのが噂。同じヘズルの血に惹かれ合ってるってね」
 ひくっと。
 喉の奥が奇妙な音を立てた。
「……うわさ、でしょう」
「うん、あくまで噂。でも、噂ってのは一部の真実をつくことがあるから。この一件でたとえるなら、ナンナのお母上の発言とか……オイフェが、確かにそんな話を聞いたと言っている。それがどういう意味なのか、考えてみたいと思わない?」
「思わないッ!」
 だん、と卓を叩いて、リーフは、まるでセリスが噂そのものであるかのように睨みつけた。
「それじゃあんまり……ナンナとデルムッドが可哀想じゃないか!」
 言うなり、踵を返して部屋を駆け出ていく。
「……フィンは可哀想じゃないのかい?」
 などというセリスの声は、開け放たれたドアの向こう側にさえ、届かなかった。

「お人が悪い」
 くす、とセリスは笑った。
「そうかな? 中途半端なところで耳に入れられるよりは、マシだと思うけど」
「それにしたって、もう少し言い様があるでしょうに」
 だってねぇ、とセリスは背もたれに体重をかけた。ぎし、と椅子が軋む。
「見てると、もどかしくて。背中を押してやりたくなるのは解るだろう?」
「それは……」
「大丈夫だよ、八方丸く収まるから。見てるといい」
「……本当にセリス様はお人が悪いから」
 軽い苦笑が、セリスの唇に浮かんだ。
「あのね……結果が良くなるってわかってやっているんだから、あんまり悪く言わないでくれないかな。それと――」
 軽く息をついて、セリスは衝立の向こうに微笑んだ。衝立の存在など、まるで無いかのように。
「二人きりの時は様をつけないで欲しいな、ラクチェ」

「フィンっ!」
 息を切らして駆け込んできた主君に、さすがの槍騎士も驚きを隠せなかった。
「リーフ様? どうかなさいましたか」
「訊きたいことがある」
 はぁ、とフィンは呆気にとられたまま。磨きかけた槍を置く事さえ失念している。
「ナンナとデルムッドは、間違いなくフィンの子供なんだな」
「はい」
 即答してから、フィンは首を傾げた。
「それが何か?」
「もう一つ。ナンナの母上……ラケシス母様がエルトシャン王を愛されていたというのは、本当なのか?」
 からん、と。
 乾いた音を立てて、槍が落ちた。
「そのようなお話、何処から……」
「本当なのか!?」
 恐ろしい剣幕で、リーフが詰め寄る。あの、その、とフィンは要領を得ない。
 確かに、ラケシスはエルト王を慕っていた。それこそ、命を懸けても惜しくないほどに。だが、あのシルベールでの邂逅の直後に、自分達は想いを確かめ合い、それこそ結婚の約束までしたのである。
 ラケシスはエルト王を愛していたのか――フィンは否定に足りるだけの材料を持っている。だが、一言否定しようものなら、このリーフ王子の剣幕ならば何故そういう結論に至ったのかを訊くに違いない。フィンは、自分の口からこういった話を説明できるような男ではなかったのだ。
 結果、曖昧な反応をせざるを得ない。だから
「じゃあ、フィンは他人を愛していると知っていて、ラケシス母様を娶ったのか!?」
 そうリーフが曲解しても、それは無理のない話である。さすがに訂正の必要を感じたフィンだが、それと口にする前に、リーフは叫びながら部屋を飛び出していってしまう。
「大人って汚い!」
 ……後には呆然としたフィンが残され、槍が乾いた音を立てて転がるだけであった。

 マンスター城の庭先まで来て、さすがに息を切らし、リーフは生け垣の側に座り込んだ。
 何だか、頭がぐちゃぐちゃしている。髪を掻き回して、リーフはため息をついた。
 幼い頃、母であると信じ込んでいたラケシス王女。その優しげな面影は、そのままナンナに重なっている。そのラケシスが、(異母とは言え)兄であるエルトシャン王を愛し、その想いを引きずったナンナが、今、アレスを愛しているだなんて……。
 あの二人は従兄妹同士だから問題はない――って、そういうことじゃなくて!
 だからってあの二人が愛し合っていい理由には……いや、そうとも違うんだ。僕は、あの二人はお似合いだと思うし、アレスにならナンナを任せてもいいと思うのだけれど……でも、何か、こう……違うんだ。何が違うのか、解らないけれど……。
 ぼそぼそと話し声が聞こえ、リーフは現実に引き戻された。庭に面した回廊を歩いてくる人がいるようだ。誰だろう、と腰を浮かせかけ、リーフは動きを止めた。
「ナンナを? ああ、それなら俺も聞いた」
 ――アレス! 戻っていたんだ。
「そうだな……あの美しさに父が惑わされたというのなら、納得できる話だな」
 すっと、血が頭まで駆け昇ったのがわかった。
「アレス!」
 立ち上がったリーフは、間違いなく、相手を見つけた。突然現れた人物にアレスは少なからず驚いているようだった。隣に誰かいたようだが、リーフの視界には入っていない。
「今の発言、訂正しろ」
 ほんのわずか、アレスの目が細められた。
「――なに?」
「ナンナとラケシス母様を侮辱する発言は、私が許さない。訂正しろ!」
 今度こそ、アレスははっきりと冷笑した。
「何を勘違いしている? ラケシス王女もナンナも、俺の親族でこそあれ、お前の関係者ではない筈だが」
「黙れ! 訂正するのか、しないのか!?」
「する必要を認めない」
 瞬間、リーフはアレスに駆け寄り、拳を振り上げた。

 ナンナが騒ぎを聞きつけた時には、夕闇の中、既にギャラリーが集まり人垣を作っていた。ぽつん、と人垣の外れに立っているユリアを見つけ、話しかけてみる。
「それが、わたしもよく……誰かがケンカされているらしいんですけど」
 これではさっぱりわからない。そもそも、誰と誰がケンカしているのだろうか。リーフの姿が見えないのが、ナンナは気になっていた。何とか人をかき分けて行って、兄の姿を見出す。
「お兄さま」
「あ、ナンナ」
 ふぅ、と一息ついてから、ナンナは兄を見上げた。
「何の騒ぎですか?」
「いや、僕も止めようと思って来たんだけれど」
「止める?」
 あれ、とデルムッドは前を指さした。野次馬の肩越しに、金色の輝きが掠める。
「何が原因かわからないと止めようが無くて。それにしても、アレス殿はともかく、リーフ様がケンカなんて一体何が――」
 言いかけたデルムッドは、妹の姿が忽然と消えたのに気がついた。
「あれ? ナンナ?」
 必死で人を押しのけて、ナンナは輪の中心に走り出た。夢中になってリーフに抱きつく。
「お止めください、リーフ様!」
 勢い余って、もろともに転んでしまう。振り上げた拳をまさか下ろすわけにもいかなくなり、アレスは呆気にとられて二人を見つめた。
「なっ、ナンナ!?」
 リーフが声を上擦らせる。ナンナはきつい視線でリーフを見たかと思うと、見る間に涙を溢れさせた。
「リーフ様、リーフ様のお顔に傷が……」
 はらはらと涙を落とし、リーフに縋りついて泣き始める。辺りは、何とも言えない白けた雰囲気が漂った。
 そんな中、最初に行動したのはアレスだった。鋭い舌打ちの音をひとつさせ、上着を拾い上げる。
「……白けた。やってられるか」
 自然と割れた人垣を縫って、さっさとその場を離れる。すぐ後をリーンが追いかけたが、野次馬がそれを見送ったのもわずかの間だった。皆、一様に顔を見合わせる。
 よくわからないけれど、と自分に対する言い訳をしてから、デルムッドは声を高めた。
「はい、解散解散」
 それを合図に、皆ぞろぞろと姿を消す。残されたのは、泣きじゃくるナンナと、ぽかんとしているリーフだけであった。
「ナンナ」
 デルムッドが声をかけると、ナンナはぴくんとして顔を上げ、今度は兄に抱きついた。
「お兄さま、リーフ様がお怪我を――」
「わかったから、もう泣きやんで。ライブがあるだろう?」
 ナンナは頷き、顔を拭った。デルムッドは、リーフに手を差し出した。
「立てますか」
「ああ」
 立ち上がろうとし、リーフは顔をしかめた。体の各所が悲鳴を上げ始めたのだ。先刻までは、そんな悲鳴はリーフの感覚に届かなかったのである。
「あいたたた……」
 やれやれ、とデルムッドはため息をついた。リーフに肩を貸し、立ち上がらせる。
「取り敢えず、傷の手当をしましょうか。ナンナ、ライブを持ってリーフ様のお部屋へ」
 ナンナが大いに慌てて駆け去る。それに背を向けるようにして、デルムッドは歩き出した。体重のほとんどをデルムッドが支えてくれているとは言え、足までもが悲鳴を上げる。
「アレス殿相手にその程度で済んだなんて、マシな方ですよ。何があったんですか?」
 リーフは答えられなかった。代わりとばかりに別なことを口にする。
「デルムッドって、フィンに似ているな。こうされるのが、何だか懐かしい」
「……答えになってませんよ」
 だが、デルムッドは追求する気はなさそうだった。

 血を拭って打撲を冷やしているところへ、ライブの杖を大事そうに抱いたナンナがやってきた。後は任せる、と短く言い残して、デルムッドはその場から姿を消してしまう。
 ――……気まずい。
 ナンナが怒っているのが空気越しに伝わってきて、リーフは内心で首を竦めた。こういう時は、早々に謝ってしまうに限る。
「ごめん、ナンナ」
「何か謝らなければならないようなことをなさったのですか」
 声は固く、彼女が本気で怒っているのが窺えた。苦笑するのでさえ、顔の傷が痛む。
「動かないでください」
 リーフを寝台の上に座らせて、ナンナは杖を構えた。やわらかな癒しの波動が、リーフの上に降り注ぐ。みるみるうちに痛みが失せて、リーフはほっと息をついた。
「ありがとう、ナンナ」
 顔を上げたリーフは、ぎょっとしてナンナの顔を見つめ直した。自分を見ていたナンナの顔が歪み、見る間に泣き顔に変わったのだ。
「ナンナ……」
 顔を覆って、ナンナはぺたりと床に座り込んだ。慌てて寝台を下り、肩に手を載せる。
「ナンナ?」
「リーフ様」
 顔を上げ、ナンナは涙を拭おうとせず、リーフを見つめた。
「お願いです。わたしのいないところで怪我なんて……」
 熱い呼気が、リーフに触れた。
「知らないところで怪我をされたと思うだけで、胸が潰れそうで」
 だから、と言う声も、しゃくり上げる中にかき消される。
「わたし……」
 そう言って、自分を見上げる様があまりにも愛おしくて。
 思わず、リーフは唇を重ねた。

 我に返ったのは、改めて青い瞳を見つめ直した、その時だった。
「あっ、その」
 慌ててナンナの肩を放し、両手を彷徨わせる。ナンナは静かに、じっとリーフを見ているばかりであった。
「……あの、ナンナ」
「はい、リーフ様」
 返答は、いつもと変わりないもので。――まるで何事もなかったかのようで。
「その……訊いてもいいかな」
「はい」
「ナンナは、その、アレスのことをどう――」
 言いかけて、リーフは勢い良く首を振った。
「私のことをどう思ってる?」
「リーフ様は、大切な方です」
 間髪入れない返答。そこに『主君として』という言葉が省略されたというのを、リーフは感じ取っていた。
「いや、だから、そういう事じゃなくて……」
 ナンナは首を傾げ、不思議そうにリーフを見つめている。その視線がくすぐったいやら逃げたいやら。
「ナンナは、好きな人とかいるのか?」
「はい」
 またしても即答。
 ごく、と唾を飲み込んで、リーフは改めて問い直した。
「誰、なんだ?」
 ナンナは、にこ、と笑った。
「今、わたしの目の前にいらっしゃる方です」
 ――はい?
「えっ、じゃ、その、私……なのか?」
「はい」
 事も無げに言われ、リーフは目眩がしそうな気がした。
「わたしは、幼い頃からリーフ様をお慕いしておりました。リーフ様は御存知だとばかり思っていたのですけれども」
「……知らなかったよ、今の今まで」
 脱力しそうになるリーフに、ナンナが明るく笑いかけている。
「やっぱり、言葉でないと伝わらないものがあるんですね」
 ナンナは嬉しそうに見えた。それは、長年の想いが自分に届いたからで……そうと考えれば、今までのナンナの行動も全部説明がつけられる。自分をあんなに案じてくれていたのも、いつも明るい微笑みを向けてくれていたのも。
 床に座り込んだリーフを、ナンナは不思議そうに見下ろし、すぐさま隣に座った。
「……ナンナ」
「はい、リーフ様」
 毎日を一緒に過ごして、それがあまりに当然で。互いの想いは語り終えていたのだと思っていたけれど……綴られる日々の中で、まだ伝えていない言葉がある。やっと気づいた、自分の気持ち。
 大きく息をついて、リーフはナンナに笑いかけた。
「私は君が好きだよ」
「……はい」

「ガキ相手に本気を出すかよ」
 リーンに手当を任せながら、アレスはそう言った。
「左手で殴ってやったんだからな。有り難く思って欲しいくらいだ」
「どうだか。半分以上本気だったんじゃない?」
 そう言ったのは、それを見守っているレイリアだった。
「ナンナの件もあったし、ねぇ?」
 え? とリーンが顔を上げる。アレスは、苦々しい視線をレイリアに向けた。
「女の視線の意味が判らんくらい、俺はガキじゃない。あの王子サマと一緒にするな」
 わけがわからずにレイリアとアレスの顔を見比べていたリーンは、ああ、と手を打った。
「なぁんだ。アレスはナンナが好きだったのね」
 唖然として、アレスはリーンを見つめた。その表情に、レイリアが笑い出す。
「……違う」
「そう?」
 全く本気にしていないリーンに、アレスは何と言ったらいいのか困惑するのだった。

 この数年後、リーフはナンナを正妃に迎える。
 その前に「身分違いだから正妃には」というナンナと、「家臣の娘はどうかと」というフィンを口説き落とさねばならなかったのだが……それはまた、別の話である。


update:1999.07.07/written by Onino Misumi

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