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やさしい瞳を持ってる
Eyes on me


 セリス様の軍を目指して飛ぶ。イザークの何処かにいるっていう、ものすごく漠然としたことしか知らないから、遭遇できたら、はっきり言って奇跡だと思う。
「オレのことバカだ何だと言えないよな」
「うるさいわね。あんまりぐずぐず言ってると突き落とすわよ」
 途中で拾ってしまった魔導士は、顔はいいけど口が悪い。雪の中に溶け込んでしまいそうな銀髪は、シレジアでは全くと言っていいくらい見ない色だ。妹がアルスターにいるって言っていたけれど……トラキアではこんな人がたくさんいるのかしら。
「あれ」
「ちょっと! 動かないでよアーサー!」
 悪い、と短く。けれどそんなの全然気にしてない感じだった。案の定、でもあれ、と続く。
「何よ」
「普通の煙とは違うと思わないか?」
 指さされた方を見る。確かに、炊事の煙とは違う。
「……何だろ。火事?」
「その割に、火の手が多くないか?」
「じゃあ何よ」
「さぁ。ただ、ほら」
 顎をしゃくられて下を見る。木々の間から見える、かなりの数の煌めき。
「何あれ……」
「軍隊、じゃないか?」
「軍が近くにいて、何で助けに行かないのかしら」
「そりゃ……黙認ってヤツなんじゃないのか?」
 どうして、と言いかけて口を噤む。イザークは、何処よりも虐げられた国なんだと聞いたことがある。だとしたら、あの軍がやらせていることなのかも知れない。
「酷い……焼き討ちってこと?」
「かも知れないってだけだよ」
 けれどアーサーの口調には苦々しいものがある。つい、しげしげと見てしまった。
「? 何だよ」
「ううん、何でも」
 ――何だ、他人なんてどうでも良さそうなコト言ってると思ったけど、そんな悪い奴でもないんじゃない。
 そうとなれば、あの村を助けなくちゃ。わたしはマーニャを急降下させた。
「フィー? うわぁッ!」
「喋ると舌噛むわよっ」
 それに、イザーク軍があんなに出てるってことは。
 セリス様の軍が近くにいるって事じゃない? 上手くすれば、合流できるかも!

 途中でアーサーと別れた。別な村も襲われているのが見えたからだ。二手に分かれれば、少しは早く助けてあげられると思って。
 そして、幸いにも村が大して被害を受けないうちに、助けることが出来た。村で聞いた話によると、やっぱりセリス様の軍が、近くまで来ているらしい。お礼もそこそこ、わたしはマーニャでイザーク軍の後を追った。アーサーのことが頭を掠めなくもなかったけれど、彼だって同じ軍を目指しているのだからいずれ再会するだろうと、わたしは高を括った。
 わたしが軍を見つけた時、もうイザーク軍との戦闘が始まっていた。どちらが帝国でどちらがセリス様の軍なのか、乱戦になっていてよく判らない。
 ――ぎり……。
 さぁっと背中が冷えた。これだけ剣戟の響きや怒声や悲鳴が飛び交う中で、それでも聞こえた弓を引き絞る音。――弓兵がいるの!?
 わたしは慌てて辺りを見回した。そして、見た。真っ直ぐ弓を構えた、青い騎士を。
「わたし敵じゃ――」
 ない、と言うよりも早く、矢が放たれた。仮に言い終えていたとしても、聞こえなかったかも知れない。
 辛うじて避ける。けれど続けざまに放たれた二矢目が、マーニャの羽を貫いた。甲高い嘶き。狂ったような動きに、わたしは手綱を握るだけで必死になった。マーニャもろとも地面に叩き付けられる。
「……マーニャ……」
 蹄の音が近づく。わたしは慌てて立ち上がり、目眩を堪えながら剣を構えた。……やって来たのは、さっきの騎士じゃなかった。茶色い髪の騎士。歴戦、という雰囲気が窺える人だった。馬の上からわたしを見つめてる。
「君は……」
 やわらかい声音。口髭なんて生やしているけれど、案外、若いんじゃないかと思った。一瞬気持ちが緩みかけたけれど、血塗れた剣が目に入って、わたしは剣を持つ手に力を込めた。あの剣で一刀の元、殺されないとも限らない。
 その人は、わたしを見て、次いでマーニャを見た。軽く目を伏せて剣を収める。
「怪我をしているのか」
 馬を下りて、こちらに近づいてくる。まだ剣を引かないわたしを見て、何を思ったのか剣を外し、鞍に残して来た。
「見せてごらん。応急の手当てくらいは出来る」
 この人は、自分に害意がないってことを、剣を置くことで示そうとしているんだ。何処の誰とも判らない、わたしに。……わたしは、ようやく剣を下げた。
 その人は少しだけ目を細めてわたしを見てから、マーニャの側に膝をついた。手際よく矢を抜いて、傷口を縛る。わたし以外には、お兄ちゃんにすら慣れなかったマーニャが、大人しく、じっとその人の手だけを見つめていた。
 また蹄の音がした。はっと振り返った先には、あの青い騎士。
「オイフェさん!」
 あの人が立ち上がる。静かに歩を進めて、わたしの前に立つ。……あれ? もしかして……庇ってくれてるの?
「何やって……シレジアの傭兵部隊じゃないですか」
 ――傭兵? わたし、帝国に雇われたって勘違いされたの?
「冗談じゃ――」
 怒鳴りかけたわたしの前に、腕が伸びた。
「待ちなさい、レスター」
 レスターと言ってはいたけれど、それがわたしにも向けられたものだと、はっきり判った。
「話を聞く余裕があってもいい筈だ。もはや勝敗は決している」
 レスターと呼ばれた騎士は、不満そうではあったけれど、頷いた。馬を下りて、あの人の前に来る。あの人が、ゆっくりとわたしを振り返った。
「私は解放軍のオイフェ。どうやら軍の者が早合点したようだ。すまない」
「いえ……わたしはフィーっていいます。シレジアから来ました。セリス様が打倒帝国の旗揚げしたって聞いて、いてもたってもいられなくて……お手伝いさせてくださいっ!」
 ぺこっと頭を下げる。と、軽く肩を叩かれた。
「顔を上げて」
 おそるおそる上げると、オイフェさんは、どきっとするくらい優しい目で、わたしを見ていた。
「帝国を討ちたいと望んでいるのなら、私達は仲間だ。頭を下げる必要はないよ」
 わたしはこの時、きっと呆けていたと思う。
 ――どうしてこの人は、無条件で信じてくれたんだろう。
 その理由は、リボーが落ち、イザーク全土の解放がなった時にわかった。セリス様の隣に、あの人が……ずっと行方知れずだった、お父さんがいたのだ。

「……オイフェさん」
 腰に挿した剣の柄、そこに手を載せて佇んでいるオイフェさんに、声をかけた。一呼吸置いて、振り返る。
「フィーか。どうした?」
「隣、いいですか?」
「ああ、構わないよ」
 言って、オイフェさんは腰を下ろした。わたしは隣に座る。ぴったりくっつく程じゃない、けれど延ばせば手が届く、そんな位置に。
 遠くから、宴の賑わいが聞こえた。こんな時だというのに、オイフェさんは進んで見張りをしている。オイフェさんにとって戦いはまだ始まったばかりで、終わっていないんだろうと思う。そんな気持ちがイードへの警戒を強めさせ、宴で酔うことを躊躇わせたんだろうって。
「もう、いいのかい?」
 そんな事をぼんやり思っていたから、咄嗟に何かわからなかった。きっと食事とか、そういうことを尋ねられたんだと思う。
「はい。オイフェさんは?」
「さっき、レスターとデルムッドが持ってきてくれたからね。大丈夫だよ」
 ……まただ。
 またあの、優しい目。何もかも見透かして、その上で赦してくれるような、そんな瞳。
 ここに来た理由も訊かないね。
 話すまで待つよ、って、言わなくてもわかる。言いたくないならいいよ、って……。
「オイフェさん」
「何だい?」
「オイフェさんは、知っていたんでしょう? 初めて会った時から……わたしが、お父さんの子供だって」
 オイフェさんは一度わたしを見てから、また視線を正面に戻した。
「確証はなかったけれどね」
 ……やっぱり、そうだったんだ。
「どうして、確認しなかったんですか? わたしの事、王女だって知ってて、どうして普通に接してくれたんですか?」
「そうされたくなかっただろう?」
 ……どうして解るの?
 言葉もなく頷く。オイフェさんはゆっくりと、まるで昔語りでもするように口を開いた。
「若い頃のフュリー殿を見ているようだった。私は随分、世話になったからね。それだけで充分だったよ」
 ――え?
「お母さん、だったの?」
 それが余程意外そうだったんだろう。オイフェさんは、小さく笑った。
「君は御両親の子供だろう?」
「それは……そうだけど。てっきり、お父さんの子供だと思ったから、助けてくれたのかと思ったの」
「誰の子供だとか誰の親だとか、そういう理由で助けた事などないよ」
 それが何処まで本気か判らなかったけれど、わたしは少しほっとした。
「じゃあ、どうして?」
「言っただろう? 帝国を倒したいと望むなら、君は仲間だ」
 打倒帝国、を口にする時。
 誰でも険しい表情になるのを、わたしは知っている。わたしを匿ってくれたトーヴェの人達、イザークの人々、解放軍のみんな……あのセリス様だって、目が、とても険しくなるのに。
 でも、オイフェさんは違う。……どうして、そんな優しい目をしていられるんだろう。
「わたし……」
「ん?」
「わたしも、頑張るね。一生懸命、戦うから」
 そしたら解るかな。どうしてオイフェさんが、そんな風に笑えるのか。
「無理をしない程度にね」
「はいっ!」
 ……知りたいよ、オイフェさん。あなたの目に何が映っているのか。
 わたしにも、同じものが見られるかな?


update:2000.08.07/written by Onino Misumi

Background:Angelic

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