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鏡の中のあなた
Melty


 ――あ。
 ユリアはふと、足を止めた。そこは、小道具を扱っていると思しき寂れた店先。色褪せた布が掛けられた、商品棚の一角だった。陽の光を鈍く反射した輝きが、ユリアにちらちらと呼びかけている。
 鏡……?
 そうではなかった。それは大きな硝子。店中を透かすように作りつけられたそれは、長く磨かれた様子が無く、曇っていた。あるいは予め作られた色合いだったのかも知れないが、ユリアにはそれを判じられない。
 硝子は店の中を透かす反面、通りを、陽を、映し出していた。ユリア自身も、そして、その隣を歩く人も。
 自分達がどう見えるか、などと考えた事の無かったユリアだったが、こうして見てみて少し気になった。並んで歩いているからには、そう仲の悪いようには見えないと思う。
 ――不思議。
 曇った硝子に映る姿は、少し歪んでいるように思えた。同じ銀の髪でも、少し色合いが違う筈だった自分と彼。だがここに映る二人は、溶けてしまいそうに見えた。一対なのではない。分かつ事の出来ぬ、唯一つのように。
 ――いい、な。
 伸ばしかけた手が止まる。触れてしまっては、自分がそうではないと、思い知らされるような気がした。
 あなたは、ずっと一緒にいられるのね。
 何故かは判らないが、そう感じた。この硝子の中、自分と同じ姿の彼女は、その人と溶け合い、ずっと一緒にいられるだろう。
 羨ましい。
 自分も、そんな風に溶けられたらいいのに。その中に溶けてしまえば、ずっとずっと一緒に……。
 突然、硝子の中の彼がこちらを見た。胸が大きく高鳴る。
「ユリア? どうした?」
 鏡像から見つめられる錯覚。慌てて、ユリアは振り返った。鏡像よりも鮮やかな色彩が広がる。突然に違う場所へ連れて行かれたように感じたのは、硝子を見つめていた所為だろう。
「なんでも、ないの」
「そうか?」
 言いながら、硝子の中を覗き込む。
「欲しい物でも? ……うわ、凄い値段だな、これ」
 そう言われてよく見れば、そこは宝飾品の店だった。確かにとんでもない値札が、そこかしこに貼られている。
「ううん、そうじゃないの」
 急いで歩き出す。数歩遅れて彼も歩き出し、すぐさま追いついてユリアを覗き込んだ。
「ユリアも女の子だからな。ああいうの、好きなんだろ?」
 見てたかったのなら、と言う彼に、ユリアは急いで首を振る。
「そうじゃないの、そうじゃ」
 覗き込んでいた瞳が、淡い苦笑を滲ませる。
「ああ、急がなくていい。……ゆっくりで、いいよ」
 その言葉に、空気がやわらかくなったような気がした。いつも不思議に思う。この人の言葉は、どうしてこんなに優しいのだろう。セリスよりも、ラナよりも、そしてレヴィンよりも。同じ軍にいる誰よりも、この人は自分を溶かしてしまう。安心させて、くれる。
「あの、ね」
「うん」
「羨ましかったの」
 ぱちぱちと忙しく瞬いて。怪訝そうな彼の表情に、ユリアは少しだけ慌てた。どうも自分は、言葉が足りないらしい。思った事が上手く相手に伝えられない。
「アーサーとわたしが、映ってたの」
 アーサーは、ちょっとだけ視線を投げた。あの店の様子を見たようだった。
「それでね、同じに見えたの。アーサーとわたしの色。だから羨ましくて」
 どうしてそうなるのか、アーサーはまだ解らないようで。ユリアは急いで言葉を探す。
「同じだから、一緒にいられるって」
 ああ、との声に、ユリアは諒解を見た。アーサーの笑みに、それを確信する。
「同じじゃないから、いいんじゃないかな」
 今度はユリアが忙しく瞬く番だった。
「だから、さ……オレとユリアが同じだったら、一緒じゃないだろ?」
 首を傾げると、こういうのはさ、と笑いかけられる。
「言葉より、行動だよな」
「え?」
 指先が絡む。握られた手から、じんわりと何か伝わってくる気がした。
「同じだったら、こうやって手を繋いだり出来ないだろ? ……『好き』にもなれないし、さ」
 通りは、それなりに賑やかだったけれど。それでも、アーサーの言葉はちゃんとユリアに届いた。
「……うん」
 胸の奥が、コトコトと音を立てる。嬉しくて嬉しくて、みんなにそれを伝えてしまいたいような、大事に秘密にしたいような、不思議な気持ちにさせられた。
「アーサー」
「うん?」
 大好きって、きっと、こういう気持ち。


update:2002.03.23/written by Onino Misumi

Background:Angelic

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