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一度だけ抱きしめて
The prayer disappeared in the deep forest


「なんて趣味の悪い部屋なの? こんな所にしか客を通せないわけ? ああもう、こっちは長旅で疲れてるっていうのに!」
「……そうだな」
「ああ……でも、この椅子は悪くないわね。ねえ、どうせならこれに揃えておしまいなさいな。統一すれば、何だってそれなりに見えるものよ」
「……そうだな」
「ちょっと。そうだな、以外は言えないわけ?」
「……そうだな」
「……。
 それにしても、辛気臭い葬儀だったわねぇ。明るい葬式なんてのも不似合いすぎてちゃんちゃら可笑しいけど、暗すぎるのも考えものじゃない?」
「……そうだな」
「大体、公家の人間があたしだけって、あんまりに侘し過ぎるじゃないの。あんた、そんなに蔑ろにされてるわけ?」
「報せていないのだから、人が居ないのは当然だな」
「……何ですって?」
「聞こえなかったのか? 報せていな――」
「くどい男ね、繰り返さなくてもいいわよ。
 じゃあ何? 仮にも公妃の葬儀を、内々に済ませたって言うの?」
「ああ」
「何よ、それ。公家の体面くらい、わかんないあんたじゃないでしょ? それとも何? そんっなに表に出したくなかったわけ? 一応、あんたの妻でしょうが」
「単に、悼んでもいない人間に、見送ってもらいたくなかっただけだ」
「…………」
「……どうした」
「吃驚したのよ。じゃあ、何? あんた、本気で愛してたってわけ? あの、大人しいばっかりでつまんない女を。政略だ何だって、さんざ文句言ってたくせに」
「それはヒルダ、お前だって一緒だろう。爵位があるだけの飾り人形だと、並べ立てていたではないか」
「そっ……れは今、関係ないじゃない!! 今、問題にしてるのは、何でそんな場にあたしを呼んだのかって、そういう事でしょう!?」
「そうだったかな」
「そうよっ!
 大体ね、そんな内々の席に呼ばれるくらい、あたしはあんたと親しくなんかないし、当然、悼んでもないわよ」
「……なら訊くが、親しくもない知人の妻の葬儀に、何故足を運んだ? お前自身が言ったように、短い道程ではなかった筈」
「それは……」
「それは?」
「……ブルームが、あいつが行けって言ったのよ。笑っちゃうわ。親しい友人なら、顔くらい出すのが道理だって言うのよ」
「ほぅ……」
「だ……だからあたし、言ってやったわ。知人だけど友人じゃないってね」
「そうだな。男と女の間に、友情なんて有り得ない」
「……何よ、それ」
「言葉のとおりだが? ヒルダ。お前も今、その口で、友ではないと言わなかったか」
「言ったわ。けどね、そういう言われ方されると、むっとするのよね」
「勝手な女だ」
「あんた程じゃないわよ。あたしは、爵位欲しさに父殺しまでしようとは思わなかったもの」
「……違いない」
「そうねぇ。そんなあんたが妻を愛し悼んでる、なんて、笑っちゃうわ。らしくないったら」
「なら、笑い話をもうひとつ、増やしてやろう」
「……何よ」
「フリージ公妃ヒルダに、スコピオの後見を依頼する」
「スコピオ……? 誰よ、それ」
「息子だ」
「え、な……?」
「笑えるだろう」
「……アンドレイ……」
「どうだ? らしくなくて笑えるだろう」
「……生まれてこの方、聞いた冗談の中で、最悪ってところね。
 笑えやしない冗談よ。あんたが息子の心配ですって? しかも後見? 判ってる? その前提には、あんたが死ぬってのが来るのよ?」
「無論だな」
「……何よ、それ」
「人は不死では有り得ない。そのくらい考えても、不思議は無かろう」
「大有りだわ。あんたって、息子の骨しゃぶってでも生き延びそうなんだもの」
「……そうか。
 一応、考えておいてくれ。必要なら文書で出す」
「あんたが必要だと思うんなら、出せばいいわ」
「なら、帰るまでに用意させよう。それとも、一晩なりとも、可愛いブルームを放っては置けぬか」
「アンドレイ!!」
「冗談だ。そうムキになるな」

 後々になってみれば。
 あの男は、自分が姉たちと対さなければならない事を、知っていたとしか思えない。
 家伝の神器と戦う、その覚悟をしていたとしか。
 けれども、あの時のあたしには、それを察する事も悟る事も出来なかった。
 あいつとは、それが最後。それっきり。
 あたしは。
 もしも、あたしがあの炎と――家伝の魔法と対峙するとしたら、あそこまで淡々といられるだろうか。

 ……どうしてあたしはあの時、
 冗談に誤魔化されたりしたんだろう。
 もしかしたら、振り返って見たら、
 あの男は震えていたかも知れなかったのに。

「スコピオ、あんたはいつだってそう、あたしに背を向けるけど、考えた事は無いのかい?」
「何を」
「あたしが裏切るって事をさ。あたしは悪魔と呼ばれた女だよ? 不安にならないのかい」
「不安がらねばならない理由が無いな。貴女は少なくとも、私の信頼を裏切った事が無い」
「あんた、顔は父親に似たけど、他は全然だねぇ。あの男から、そんな殊勝な言葉、聞いた例が無いよ」
「…………」
「何だい? 何か可笑しかったかい」
「いや、可笑しくはないんだが……そうだな。貴女の口から語られる父は、他の誰より生き生きしていて、私には心地よい。だから貴女を疑う気が失せると言ったなら、甘いと笑うだろうか」
「ああ、ああ、ちゃんちゃら可笑しくて笑うわねぇ。あたしはフリージの女王だよ? それを捕まえての言い草にしては、甘過ぎるだろうねぇ」
「だが、私にとってのヒルダ、貴女は――」
「あたしは?」
「父母よりも、近い存在に思え――てっ!」
「ふざけた事をお言いでないよ。
 さ、あたしにとってもあんたにとっても、郎党の仇が来るんだよ。気を引き締めてかかりな。このあたしを、一度とは言え敗走させたんだ。甘い相手じゃないよ」
「……わかった」
「あたしは城に戻るよ。スコピオ、あんたも自分の城くらい、きちんと守ってお見せ」
「そうさせて貰う。――ヒルダ」
「何だい?」
「貴女にとって、父とはどんな存在だったのか、訊いてもいいだろうか」
「おや。今まで訊いた事なんざ無かったのにかい?」
「だから訊きたい、というのは?」
「……そうだね。
 男と女の間には、友情が成立しないもんさ。そういう関係だったね。今のあんたと、大して変わりゃしない……これ以上の詮索は無しだよ」
「そうか。――ああ、ヒルダ」
「ったく、今度は何だい」
「武運を」
「……他人の武運を祈ってる場合かい? あんたはまだまだ青いんだから、身に過ぎた事はおしでないよ」
「そう言う貴女こそ、せいぜい気をつけられよ、ヒルダ。もう若くはないのだからな」
「何だって!?」
「冗談なのだから、そう怒らずとも」

 どうして、あたしは振り返らなかったんだろう。
 振り返っていれば。
 震える肩を抱きしめて、励ましてやるくらい出来た筈なのに。


update:2002.10.14/written by Onino Misumi

Background:Angelic

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