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せつない歌をきかせて
Hello, my old dear pain


――季節がめぐるように 冷たい風が吹くとも また花は開く――

「あなた」
 その呼びかけに、彼は振り返った。腕に抱いた息子が、呼びかけた人物を認めて嬉しそうに声を上げた。
「風邪を、ひきます」
「ああ……」
 彼は目を逸らし、再び視線を遠くへと向けた。その方角は南西――彼の故郷だ。何をしている、とは問いかけることができず、呼びかけた人物は、そっと彼に寄り添った。
「……歌を、歌っていた」
「歌……?」
「ああ。ドズルの鎮魂歌だ」
 風に紛れてしまいそうな声に、胸が痛む。肉親をその手にかけるという辛さは、充分に知っている。それだけに、涙ひとつ流さない、彼の矜持が哀しい。
 弟を、姉と共に手にかけたその時、姉は泣かなかった。自分は、目も溶けるほどに泣いた。それは自分の悲しみが姉より勝っていたからでは、決してない。泣くことばかりが悲しみの表現ではない。だが……物事の表面しか見ない輩の、何と多いことか。
 恐る恐る、彼に腕を絡める。深い笑みが――悲しみ、それ自体をも飲み込んでしまいそうな笑みが、それに応じた。
「エーディン?」
 ふる、と首を振って、彼に頭を凭れさせる。彼が、いっそう深く笑った気配があった。
「……なぁ、エーディン」
 目を上げると、真剣な眼差しとぶつかった。
「オイフェ達が軍を離れるという話は聞いたな」
「ええ」
「君も行け。レスターと一緒に」
 言われた意味が解らず、エーディンは腕を解き、彼を見つめた。
「どうして……?」
「これから、戦いはもっと厳しくなる。身重の君を、戦場には置きたくない」
「激しくなるなら……今よりもっと、回復役が必要になるのでしょう? そんな、行けだなんて言わないで」
 エーディン悲痛な声に、彼は薄い笑みを浮かべた。
「何も、今生の別れじゃない。イザークだって、必ずしも安全とは限らないんだ。オイフェやシャナンだけじゃ心許ないだろう?」
「でも――」
「終わったら、必ず迎えに行く。……待っていて欲しい」
 胸から突き上げてくるような痛みが、熱に変わって瞳から零れ落ちた。彼は息子を抱き直し、器用にそれを拭った。
「泣くなよ。言ったろう? 今生の別れじゃない」
「ええ……わかっています。でも……」
 彼は鼻でため息をつき、息子を下ろした。下ろされた息子は、ただ涙を落とすだけの母を不審がり、その膝に縋り付く。
「レスター」
 ぽん、と頭を撫でて。
「母さまと生まれてくる赤ちゃんを、頼んだぞ」
 たまらず、エーディンは声を上げて泣いた。愛しい人の腕が抱き止めてくれても、涙はなかなか止まらなかった。呼応したように息子までもが泣き出し……困惑した彼が小さく苦笑しても、なお。


 苛立ちをため息という形で体外に追い出しながら、レスターはリボーの城をうろうろと歩いていた。戦勝の宴が始まろうと言うところに、功労者であるドズル家兄弟の姿が見えない。従兄弟というよしみもあり、探すのをかって出たまでは良かったが……無意味に華美な城は、人捜しには適さない。
 ふと、歌を聞いたように思って、レスターは歩調を緩めた。……確かに聞こえる。哀しい、けれど綺麗な旋律。中庭に面した廊下へと出、レスターは声の主達を見た。

――今、星が流れる 抱いた夢は虚しく潰え 死の翼が包む
  青き衣を纏いて戻らぬ旅路につく 見送るは涙と歌をもって
  辛い別れとなりぬるを 我らは耐えん
  冬の後に春が来るように 季節がめぐるように
  冷たい風が吹くとも また花は開く――

 自分達を見守る気配に、最初に気づいたのはヨハルヴァの方だった。
「レスターじゃないか」
 その声にヨハンも顔を上げ、笑みに似た表情を浮かべた。
「もしかして、探させてしまったのかな」
「ああ。戦勝の宴が始まるから来て欲しい、とセリス様が」
「それはすまなかった」
 中庭から廊下へと入り、ドズルの兄弟は、等しく驚いた表情を閃かせ、互いに顔を見合わせた。
「どうした?」
「どうしたって……それはこっちの台詞だ」
 ヨハルヴァが、びしっと指さす。
「なんで泣いてんだよ」
 ――えっ?
 レスターは自分の顔に手を当て、掌が濡れるのを見た。そうと自覚した瞬間、堰を切ったように溢れ出す、涙。
「どう、して……」
 拭うことさえも思いつかない風情のレスターに、ヨハンもヨハルヴァも困惑の色を隠せない。
「今の、歌……何だ?」
 熱い呼気から、絞り出すように尋ねる。ああ、とヨハンが受けた。
「ドズルの鎮魂歌だ。……あんな男でも、我々にはたった一人の父だからな」
 父、親……。
 覚えている筈などない。別れた時、自分は一歳ぐらいで……でも。
「変、だな」
 しゃくり上げ、レスターは笑った。
「父を、思いだした気がする。その歌を歌っていたような……」
 ヨハンが沈痛そうに顔を俯かせた。ヨハルヴァは、怒ったように顔をしかめた。
 レスターの父・ドズル公子レックスは、かのバーハラの悲劇でその命を散らした。だがその前に、父たるランゴバルト卿を手にかけた。……その事が、等しく思い浮かんだのだ。
「……行こうか」
 耐えかねたように、ヨハンが促す。ヨハルヴァが、ぽん、とレスターの肩を押した。レスターの耳の奥。歌の最後の一節が、二人とは違う男の声で、響いた気がした。

――冷たい風が吹くとも また花は開く――


update:1999.09.13/written by Onino Misumi

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